「世界の関心が失われないように...」ウクライナ人歌手もコメディアンも戦い続ける
Pop Culture Goes to War
「まいた種は刈り取れ」
「隣国に攻め込んでジェノサイド(民族大虐殺)に等しいことをやれば、そう思われても仕方がない」と言ったのは、米シンクタンク「戦争研究所」のフレデリック・ケーガン。
「ウクライナの民族主義とウクライナ人のアイデンティティーをここまで高めたのは(ロシアの大統領ウラジーミル・)プーチンの功績だ。いま私たちが目にしているのは、ロシア的なものを完全に捨て去ったウクライナ人のアイデンティティーの出現だ」
両国の歴史は長く重なり合っていて、それだけ結び付きも深かった。ウクライナでは1991年に独立を果たしてからも、多くの国民がロシアへ出稼ぎに行っていた。アーティストにしても、冒頭のへイルより上の世代は、ロシアとロシア語圏を主な活躍の場としていた。
ウクライナの大統領ウォロディミル・ゼレンスキーは元コメディアンだが、彼も90年代後半に、モスクワで開かれる大会への出場を目指して一座が競い合うロシアのコメディー選手権で名を挙げた。
以前のウクライナにはロシア好きもロシア嫌いもいた、とケーガンは指摘する。この戦争が始まるまでは「ロシアが帝国主義的な態度を捨てれば、両国が友好関係を築ける可能性もあった。しかし、もう当分は無理だろう」。
ヘイルが歌手デビューを果たした10年代後半には、既に国内市場が育っていた。だから、ロシア語で歌わなくても食べていけた。ただし、まだロシア的なものを全て拒絶する必要はなかった。
キーウ音楽院に在学中、ヘイルはYouTubeに個人チャンネルを開設し、他のアーティストの曲をアカペラで歌っていた。中には、ロシアの人気歌手モネトチカの曲もあった。
しかしウクライナでの「特別軍事作戦」に一貫して反対してきたモネトチカは今年1月、ロシア政府によって「外国の代理人」に指定されてしまった。戦争がなければヘイルは彼女と自由にコラボもできたはずだが、もうそんなことはあり得ない。
「ロシアの文化は嘘ばかり。どんなつながりも、もう持ちたくない」と、ヘイルは言う。「文学の授業でも歴史の授業でも教わった。何百年も前から、ロシアは私たちの歴史を殺し、私たちの英雄を殺し、伝統を殺し続けてきた」
戦争が続くなかで発表した新曲で、彼女は歌う。
「奴らは幸せを爆破する/奴らは夢を撃ち落とす/でも私たち、魂までは奪わせない/自分のまいた種はちゃんと自分で刈り取りな/絶対に自分で刈り取るんだ」