「極超音速」キンジャールはウソ、プーチンは開発者に騙された?──ロシア元対外情報庁長官
Kinzhal missile makers "deceived" Putin, says Ukrainian ex-intel chief
キンジャールを装備したミグ31戦闘機(2022年、対独戦勝記念軍事パレードのリハーサルで) Maxim Shemetov-REUTERS
<「無敵」のはずのキンジャールがウクライナの防空システムに撃ち落とされて、開発した科学者たちは国家反逆罪容疑で逮捕されたという>
ロシアの極超音速空対地ミサイル「キンジャール」の開発者たちは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「欺いた」――ウクライナの元対外情報庁長官がこう指摘した。
2010年まで同長官を務めていたミコラ・マロムシュは、ウクライナのメディアに対し、開発者たちはキンジャールを「高性能兵器」と謳っていたが、実際にはそれほどの性能は発揮できなかったと述べた。キンジャールの性能については、西側のアナリストからも疑問の声が上がっている。
ロシア大統領府は5月に入って、キンジャールの開発に携わった科学者3人が「きわめて重大な罪に問われている」と発表した。だが当時は、それ以上の情報を明らかにしていなかった。
問題の科学者はアナトリー・マスロフ、アレクサンデル・シプリュクとバレリー・ズベギンツェフだ。「航空力学分野における傑出した科学者」3人の逮捕を受け、ロシア科学アカデミー・シベリア支部の理論応用力学研究所の研究者たちは、インターネットに抗議の公開書簡を発表した。
この公開書簡によれば、3人は国家反逆罪の容疑で逮捕されたという。ロシア国営メディアは、シプリュクは2022年8月に逮捕され、マスロフは昨年6月にロシア当局に身柄を拘束されたと報じた。ズベギンツェフについてはこれまで報じられていなかったが、ロイター通信は地元メディアを引用する形で、4月7日に逮捕されたと報じた。
撃墜された「無敵のミサイル」
これとは別に、同じくシベリアにあるノボシビルスク国立大学のロシア人物理学者、ドミトリー・コルケルが2022年夏に国家反逆罪で逮捕されている。末期がんで入院中だったコルケルは、ロシア連邦保安庁(FSB)によって病院から拘置所に移送され、死亡したという。
理論応用力学研究所の職員らは公開書簡の中で、「科学界全体が衝撃を受け、憤りを感じている」と表明した。
プーチンは極超音速ミサイルシステム「キンジャール」は「無敵」のミサイルだと豪語してきた。NATOの「キルジョイ」というコードネームでも知られる同ミサイルについてロシアは、音速の10倍まで加速可能で射程距離は2000キロ超だとしている。だが西側の専門家からはキンジャールの性能や「極超音速」であることを疑問視する声が上がっていた。
ウクライナ軍は5月16日、夜間に首都キーウを襲った「キンジャール」6発を撃墜したと発表。これより前には、米国製の地対空ミサイルシステム「パトリオット」でキンジャールを迎撃することに成功したとも述べていた(ロシア側は否定)。