最新記事
台湾

【台湾・総統選】人気の高い公認候補を立てた国民党だが、不安が募る理由とは?

KMT Chooses Hou

2023年5月22日(月)14時25分
ブライアン・ヒュー(ジャーナリスト)

230530p34_TWN_02.jpg

郭台銘はまたしても「野望」を打ち砕かれた(12日、新北市) ANN WANGーREUTERS

とはいえ、国民党が台湾に拠点を移して70年以上がたった今、人々の意識は変わり始めている。特に若者の間では、中国に対する警戒感(と対中融和策への懸念)が大きくなっている上に、中国人というより台湾人というアイデンティティーが強くなっている。

こうした世代的な感覚のズレは、既に国民党内に大きな不協和音を生み出している。来年の総統選では、立法委員(国会議員)選も同時実施されるため、同党は立法委員の公認候補選びも進めているが、党のイメージを刷新する若手ではなく、有力一族出身者が優遇されているという批判が若手政治家を中心に巻き起こっているのだ。

こうした不協和音は、対中関係の現状維持を希望する層を分断する恐れがある。鴻海(ホンハイ)精密工業創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)の存在も不安要因だ。郭は10年ほど前から総統の座に関心を示しており、20年に国民党の公認候補の座を争ったが敗北し、離党を宣言していた。

しかし、今年4月、郭は離党したことを謝罪して、再び総統選の候補指名獲得を目指すと表明。党が最終的に決めた候補者に異議は唱えないとも明言した。

民進党に「漁夫の利」も

今回の指名獲得競争で、郭は漢民族を意識したポピュリズムに傾倒した。中国の侵略の脅威を退ける8万機のロボット軍隊を創設するとか、全ての行政区に小規模な原子炉を建設するなど、奇抜な公約を掲げて世間を驚かせた。

対中問題については、民進党が「一つの中国」の原則をめぐる92年コンセンサス(九二共識)の再定義を秘密裏に進め、中国が台湾に軍事行動を起こすように仕向けていると主張した。

つまり、自分は台湾の平和を守り、現状を変えようとする民進党の工作から「中華民国」を救うために出馬した、というわけだ。

もっとも、台湾は中国への経済依存度を下げるべきだと主張した郭だが、自らは中国本土で操業して富を築いた台湾人起業家「台商」の象徴でもある。

候補者選びが非公開で行われることは、郭に有利ともみられていた。党が侯に不信感を抱いた場合、妥協案で郭に落ち着く可能性もあったからだ。しかし、侯のほうが世論調査で人気が高く、党の中央指導部からも支持を集めたようだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中