【台湾・総統選】人気の高い公認候補を立てた国民党だが、不安が募る理由とは?
KMT Chooses Hou
とはいえ、国民党が台湾に拠点を移して70年以上がたった今、人々の意識は変わり始めている。特に若者の間では、中国に対する警戒感(と対中融和策への懸念)が大きくなっている上に、中国人というより台湾人というアイデンティティーが強くなっている。
こうした世代的な感覚のズレは、既に国民党内に大きな不協和音を生み出している。来年の総統選では、立法委員(国会議員)選も同時実施されるため、同党は立法委員の公認候補選びも進めているが、党のイメージを刷新する若手ではなく、有力一族出身者が優遇されているという批判が若手政治家を中心に巻き起こっているのだ。
こうした不協和音は、対中関係の現状維持を希望する層を分断する恐れがある。鴻海(ホンハイ)精密工業創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)の存在も不安要因だ。郭は10年ほど前から総統の座に関心を示しており、20年に国民党の公認候補の座を争ったが敗北し、離党を宣言していた。
しかし、今年4月、郭は離党したことを謝罪して、再び総統選の候補指名獲得を目指すと表明。党が最終的に決めた候補者に異議は唱えないとも明言した。
民進党に「漁夫の利」も
今回の指名獲得競争で、郭は漢民族を意識したポピュリズムに傾倒した。中国の侵略の脅威を退ける8万機のロボット軍隊を創設するとか、全ての行政区に小規模な原子炉を建設するなど、奇抜な公約を掲げて世間を驚かせた。
対中問題については、民進党が「一つの中国」の原則をめぐる92年コンセンサス(九二共識)の再定義を秘密裏に進め、中国が台湾に軍事行動を起こすように仕向けていると主張した。
つまり、自分は台湾の平和を守り、現状を変えようとする民進党の工作から「中華民国」を救うために出馬した、というわけだ。
もっとも、台湾は中国への経済依存度を下げるべきだと主張した郭だが、自らは中国本土で操業して富を築いた台湾人起業家「台商」の象徴でもある。
候補者選びが非公開で行われることは、郭に有利ともみられていた。党が侯に不信感を抱いた場合、妥協案で郭に落ち着く可能性もあったからだ。しかし、侯のほうが世論調査で人気が高く、党の中央指導部からも支持を集めたようだ。