【台湾・総統選】人気の高い公認候補を立てた国民党だが、不安が募る理由とは?
KMT Chooses Hou
公認候補に選ばれて党本部で決意を表明する侯友宜(5月17日、台北市) ANN WANGーREUTERS
<来年1月の総統選に向けた戦いが本格スタート。侯友宜と同じく本省人だった李登輝元総統に対中政策で「裏切られた」という根強い感覚が国民党幹部にはあるが、そもそも国民の意識が変わりつつある>
2024年1月に予定される台湾次期総統選で、民主進歩党(民進党)から総統の座の奪還を狙う最大野党の国民党が、5月17日に公認候補を発表した。
台湾最大の都市・新北市の侯友宜(ホウ・ヨウイー)市長だ。かねてから世論調査ではトップの人気を誇ってきた侯だが、ここにこぎ着けるまでには紆余曲折があった。
国民党は今年3月、これまでのような予備選挙によってではなく、党幹部による非公開の協議によって党公認候補を決定すると発表していた。
これは16年の総統選に出馬して敗北した朱立倫(チュー・リールン)党主席(党首)が、改めて総統選に挑戦したいからではないかとささやかれてきた。朱は20年総統選では、党公認候補の座さえ勝ち取れなかった(その後21年に党主席に就任した)。
侯のほうにも難点があった。一般有権者の人気は高いが、国民党の重鎮の間では不信の目で見られていたからだ。理由の1つは、侯が本省人、すなわち国民党が台湾に拠点を移す前から台湾に住んでいた一族の出身であることだ。
しかも政界入りする前は有名な警察官僚だった侯は、民進党に近い立場を取っていた時期もある。実際、民進党の陳水扁(チェン・ショイピエン)総統時代に、入党を勧められたこともあった。だが、朱が新北市長だったとき、副市長に請われたのをきっかけに国民党に加わったとされる。
一般大衆の間で侯の人気が高いのは、政治的に穏健な姿勢を取ってきたからだ。対中関係でも、特定の立場に縛られることを避け、民進党が党是に掲げる「台湾独立」も、中国が唱える「一国二制度」も極端だとして、反対の立場であることを示唆してきた。
だが、対中融和策を取る国民党としては、こうした侯の曖昧な態度こそが、不信の目を向ける原因となっている。その根底にあるのは、やはり本省人だった李登輝(リー・トンホイ)元総統に「裏切られた」という根強い感覚だ。
揺れるアイデンティティー
共産党との内戦に敗れて台湾に拠点を移した伝統的な国民党エリートは、中国本土とのつながりを重視する傾向が強い。ところが台湾ネイティブの李は、国民党を台湾に土着化する政策(台湾本土化)を進めた。国民党幹部としては侯も同じ道をたどるのではという不安があるのだ。