最新記事
台湾

【台湾・総統選】人気の高い公認候補を立てた国民党だが、不安が募る理由とは?

KMT Chooses Hou

2023年5月22日(月)14時25分
ブライアン・ヒュー(ジャーナリスト)
侯友宜

公認候補に選ばれて党本部で決意を表明する侯友宜(5月17日、台北市) ANN WANGーREUTERS

<来年1月の総統選に向けた戦いが本格スタート。侯友宜と同じく本省人だった李登輝元総統に対中政策で「裏切られた」という根強い感覚が国民党幹部にはあるが、そもそも国民の意識が変わりつつある>

2024年1月に予定される台湾次期総統選で、民主進歩党(民進党)から総統の座の奪還を狙う最大野党の国民党が、5月17日に公認候補を発表した。

台湾最大の都市・新北市の侯友宜(ホウ・ヨウイー)市長だ。かねてから世論調査ではトップの人気を誇ってきた侯だが、ここにこぎ着けるまでには紆余曲折があった。

国民党は今年3月、これまでのような予備選挙によってではなく、党幹部による非公開の協議によって党公認候補を決定すると発表していた。

これは16年の総統選に出馬して敗北した朱立倫(チュー・リールン)党主席(党首)が、改めて総統選に挑戦したいからではないかとささやかれてきた。朱は20年総統選では、党公認候補の座さえ勝ち取れなかった(その後21年に党主席に就任した)。

侯のほうにも難点があった。一般有権者の人気は高いが、国民党の重鎮の間では不信の目で見られていたからだ。理由の1つは、侯が本省人、すなわち国民党が台湾に拠点を移す前から台湾に住んでいた一族の出身であることだ。

しかも政界入りする前は有名な警察官僚だった侯は、民進党に近い立場を取っていた時期もある。実際、民進党の陳水扁(チェン・ショイピエン)総統時代に、入党を勧められたこともあった。だが、朱が新北市長だったとき、副市長に請われたのをきっかけに国民党に加わったとされる。

一般大衆の間で侯の人気が高いのは、政治的に穏健な姿勢を取ってきたからだ。対中関係でも、特定の立場に縛られることを避け、民進党が党是に掲げる「台湾独立」も、中国が唱える「一国二制度」も極端だとして、反対の立場であることを示唆してきた。

だが、対中融和策を取る国民党としては、こうした侯の曖昧な態度こそが、不信の目を向ける原因となっている。その根底にあるのは、やはり本省人だった李登輝(リー・トンホイ)元総統に「裏切られた」という根強い感覚だ。

揺れるアイデンティティー

共産党との内戦に敗れて台湾に拠点を移した伝統的な国民党エリートは、中国本土とのつながりを重視する傾向が強い。ところが台湾ネイティブの李は、国民党を台湾に土着化する政策(台湾本土化)を進めた。国民党幹部としては侯も同じ道をたどるのではという不安があるのだ。

自動車
DEFENDERの日本縦断旅がついに最終章! 本土最南端へ──歴史と絶景が織りなす5日間
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 初外遊=関

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中