ウクライナ、ロシア後退した地域に訪れたのは安心ではなく「隣人への不信」

ウクライナ南部ヘルソン市で地区長の仕事をしているバレンティナ・ハラスさんは、自分は裏切り者ではないと訴える。しかし彼女が住む家の庭の壁には、赤いペンキでウクライナ人でありながらロシアのファシストであることを意味する「ラシスト(Rashist)」という言葉や、モスクワの戦争マシンへの支持の象徴とされる「Z」の文字がびっしり書き込まれている。写真は自宅の外に立つハラスさん。3日撮影(2023年 ロイター/Carlos Barria)
ウクライナ南部ヘルソン市で地区長の仕事をしているバレンティナ・ハラスさん(74)は、自分は裏切り者ではないと訴える。
しかし彼女が住む家の庭の壁には、赤いペンキでウクライナ人でありながらロシアのファシストであることを意味する「ラシスト(Rashist)」という言葉や、モスクワの戦争マシンへの支持の象徴とされる「Z」の文字がびっしり書き込まれている。
8カ月余りにわたって占領していたロシア軍が昨年11月に撃退された後も、なおロシア側の容赦ない砲爆撃にさらされているヘルソン。そこに渦巻くのは相互不信と恐怖だ。
ロシア軍の占領から半年が経過した時点で、隣人同士が疑心暗鬼に陥り、裏切り者がどこから現れても不思議はないと思わせる状況になった。
ハラスさんの場合は、昨年11月26日にウクライナ軍の関係者4人が自宅を訪れ、ロシアに協力した疑いがあると告げられた。事実と認められれば最大で10―15年の禁固刑を科せられる重罪だ。関係者らは家宅捜索をして彼女のコンピューターと携帯電話を押収し、近所の人たちから彼女がロシアに従い、ロシアのパスポートを取得するよう積極的に呼びかけたとの申し立てがあったと説明したという。
その後ハラスさんは警察からも尋問されたが、今のところ具体的な罪状を挙げられて逮捕ないし起訴はされていない。もちろん彼女は全ての容疑を否定し、なぜ協力者のレッテルを貼られたのかも見当が付かないと困惑。ロシア軍が追い出されたのはうれしいと付け加えた。
「正直なところ、何が何だか分からない。捜査結果でも何も見つからなかった」と涙ながらに話した。
一方、隣人のイリーナさんの説明は全く異なる。
イリーナさんは「ハラスさんは公然とロシアを支持し、ロシアは偉大で、自分はウクライナの支配下で恐ろしい思いをしたと誰彼となく触れて回っていた。それは決してこっそりとした告白ではなかった」と語った。
さらに「住民らはハラスさんがすぐ連行されると思っていた。われわれは何カ月間も彼女を弾劾する文書を書いてきた。だが彼女は逮捕されず、住民はショックを受けている」と打ち明けた。
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