G7の間に中央アジアに地歩を築く中国
China Winning New Central Asia Foothold, Edging U.S. Out of Russian Bastion
新疆ウイグル自治区への支配を正当化し、強化するという目的を中心に据え、「中国はさまざまなイニシアチブを通じて、中央アジアで着々と存在感を増してきた」とヤウは言う。「あいにくとアメリカは中央アジアへの関与については、それほど強い動機付けを持っていないようだ。そのため、この地域では中国に対抗できる足場づくりができていない」
広大な中央アジアはユーラシア大陸の中心に位置し、北はロシア、南はアフガニスタンとイラン、東は中国と国境を接し、西はカスピ海に面している。20世紀のかなりの時期、この地域の5カ国は旧ソ連を構成する共和国であり、ソ連崩壊に伴い1991年に独立した後も、ロシアと緊密な関係を保ってきた。
冷戦後に米ロ関係が改善した時期に、アメリカとNATOの同盟国は、タリバン政権下のアフガニスタンに対する戦争のため、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタンの3カ国に駐留軍を派遣した。だがこれらの軍事拠点は長持ちせず、戦争が周辺国に波及する懸念があったにもかかわらず、2014年に駐留軍は撤退した。
2021年8月の米軍の撤退で、20年続いたアフガニスタン戦争は終わり、タリバンが再び政権を握った。この展開と相前後して、アメリカは再び中央アジアの国々との軍事的な結びつきを強化しようと試みたが、ロシアがこれに強硬に異を唱えて妨害。今では中央アジアの3カ国(カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン)はロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」に加盟し、ウズベキスタンは中ロ主導の防衛協力も含めた包括的な協力の枠組み「上海協力機構(SCO)」に加わっている。
「陸の孤島」となる不安
カザフスタンが反政府デモに揺れた2022年1月には、CSTO軍が鎮圧に出動した。SCOも存在感を増し、中国の仲介で今年3月に外交関係を正常化したイランとサウジアラビアをはじめ、多くの国々が新たに参加した。
こうした流れと共に無視できないのは、アメリカと中国、ロシアとの関係が悪化するなかで、中央アジアに渦巻く不安だ。西側と中ロの対立が深まれば、中央アジアは世界の貿易から締め出される恐れがあり、そのためにこの地域はますます中ロに接近しつつある。
「中央アジアでは、ロシアの(ウクライナ)侵攻後、ロシアと距離を置いて、西側に接近すべきか否かがさんざん議論された」と、ヤウは言う。「さらに、もし本当に中国が台湾に侵攻したら、中国とロシアに挟まれた中央アジアは完全に干上がってしまうという議論も起きた。(中ロを経由する以外には)貿易を行える物理的なルートがないからだ」
台湾有事で中国に経済制裁が科されれば、制裁対象国に囲まれた中央アジアは世界経済から切り離された陸の孤島となる。その場合、「これまで以上にロシアと中国に頼るしか選択肢が残されていない」と、ヤウは言う。
もっとも、ここに来て「欧州各国とアメリカも、(中央アジアの)重要性に気づき始めた」と、デンマーク国際研究所(DIIS)の上級研究員である江陽(チアン・ヤン)は指摘する。
2月下旬に行われた中央アジア5カ国+1(アメリカ)の外相会議の際にも、この認識が浮き彫りになった。アントニー・ブリンケン米国務長官はこの会議で、アメリカとして中央アジアへの関与を強化していく姿勢を打ち出した。
だがデンマーク国際研究所の江は本誌に、それでは「十分な努力とは言えない」との見方を示した。
G7は2021年、世界の中低所得国の開発およびインフラ整備の支援を行う「より良い世界再建(Build Back Better World)」構想を打ち出した。だがその対象はこれまでのところ、米中が影響力を争うアジア太平洋地域が中心だったと、江は言う。さらに「アメリカの中央アジアに対する関与はいまだに軍事分野に偏っているが、ロシアの目が光っているため、限定的にとどまっている」と指摘した。
彼女はまた、米中の対立に関して、中央アジア諸国の立場には「見解の食い違い」がみられるとも指摘した。
「アメリカは、たとえば民主主義のような価値観ベースの政治に重点を置き、中国は脅威だと主張する」と、彼女は述べる。「一方中央アジア諸国は、中国の影響力や、中国と中央アジアの経済関係について、アメリカほどは懸念していない。『我々には開発が必要だ』と考えているからだ」
中国はロシアを食うか
かつて中央アジアを経由して中国と欧州を結んだシルクロードを模した習の「一帯一路」構想は、政治的な制約なしに、中央アジアにとって喫緊の課題であるインフラ開発などに一つの解決策を提供する。だが中国政府は、同構想による協力範囲の解釈を投資だけでなく、人身売買や麻薬密売の取り締まりや、中国当局が「三悪」と称する分離主義、過激主義、テロリズムとの戦いにまで拡大している。
中央アジア諸国が国際的な商取引を維持しようと懸命に努力するのと同様、中国とロシアにとってもこの地域との取引強化と安定は重要だ。アメリカからの経済制裁の影響を回避するためには、中央アジアに確固たる陸路を確保しておく必要があるからだ。そこで経済的に圧倒的に大きいのは中国だが、戦略的・文化的な影響力はロシアにある。「したがって中国がロシアに取って代わろうとすることはないはずだ」と、江は言う。
中国人アナリスト兼ジャーナリストで、現在は中国・中央アジアサミットに随行して西安にいる沈詩偉も同じ考えだ。
「中国とロシアは、中央アジアでは競争関係ではなく補完関係にある」と沈は本誌に述べた。「中国は地域の経済発展において重要な役割を果たしており、ロシアは安全保障と戦略的な安定性の面で依然として替えがきかない存在だ。上海協力機構(SCO)の枠組みの中で、中国、ロシアと中央アジア諸国は、地域の安全保障とテロ対策において前向きな協力を行っている」