最新記事
中央アジア

G7の間に中央アジアに地歩を築く中国

China Winning New Central Asia Foothold, Edging U.S. Out of Russian Bastion

2023年5月18日(木)19時54分
トム・オコナー

沈はまた、中国による中央アジアへの進出が、欧米諸国の地位に悪影響をもたらすこともないだろうと言う。

「中国からすれば、中国と中央アジアの協力は、中央アジア諸国とロシア、アメリカやヨーロッパとの協力関係に影響を及ぼすものではない」と彼は指摘する。「私はかなり長い間、西側諸国の国際関係論を研究してきたが、ゼロサム・ゲーム理論は中央アジアの現状に合っていないことが分かった」と述べた。「中央アジア諸国はユーラシア大陸の重要な陸路として、中国、ロシア、アメリカおよびヨーロッパすべてと緊密な協力関係にある」

実際中央アジアは、重要なハブとして、中国が欧州域内で経済的な役割を拡大するのを可能にしてきた。ロシア経由で中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」もその例だが、現在はウクライナ侵攻による欧米の制裁のせいで欧州の幾つかの目的地に到達できなくなっている。

中央アジア諸国はロシアのウクライナ侵攻に支持は表明してはいないが、超大国同士の対立に巻き込まれたり、対立の誤った側について経済面でのチャンスを逃すこともしたくないと考えていると、沈は言う。

鉱物資源や輸送ルートの争奪戦

「グローバルサウス(途上国の大半が位置する南半球)の多くの国々と同様、中央アジア諸国も、どちらの側につくのか迫られることには反対だ」と彼は言う。「中国と中央アジア諸国の間には、中央アジアでカラー革命(民主化運動)を煽ろうとする外部勢力や、人権を口実とした内政干渉、国民の平穏な生活を壊そうとするいかなる勢力にも反対するという、強い合意がある」

しかしながら、地政学的な抗争が激しさを増し、レアアースをはじめとする重要資源の争奪戦が起きるなか、中国、ロシアとアメリカなどとの関係を維持しつつバランスを取ろうとする中央アジア諸国のやり方は、試練に直面することになるかもしれない。

ロシアのシンクタンク「ロシア外交問題評議会」の専門家で、トムスク大学孔子学院のディレクターを務めるアーテム・ダンコフは本誌に、「中国は中央アジアの鉱物資源がもっと必要だし、中央アジアは欧州に通じる道がもっと必要だ」と語った。「中央アジアは、新疆ウイグル自治区など中国西部にある中国企業にとって、重要なマーケットだということも忘れてはならない」

ダンコフはまた、「この地域における社会的・経済的な成長は不安定」であり、中央アジア諸国には「幾つかの深刻な社会的・政治的な問題」が根強く残っているとも指摘する。戦争や摩擦に収まる気配が見えない状況は、中央アジア諸国を弱い立場に追いやりかねない。「そう考えると、アメリカは今後、中央アジアにおいてロシアと中国に挑戦する余地がまだあるし、挑戦しなくてはならない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、11月は48.2に低下 9

ビジネス

米国株式市場=反落、ダウ427ドル安 米国債利回り

ワールド

ウクライナ、和平案巡り欧州と協議 ゼレンスキー氏が

ワールド

トランプ氏、イスラエル首相をホワイトハウスに招待 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中