精子を静止させる避妊薬開発へ 1時間で効き目、2時間後なら100%避妊...その仕組みは?
(写真はイメージです) ninoon-shutterstock
<米コンサルティング会社は「バイアグラ発売時の3倍の普及率になる可能性がある」と予測>
男性用避妊薬の開発がなかなか進まないなか、米コーネル大学医学部のチームは今年2月、一時的に精子の動きを止める薬を発表した。
精子が卵子に向かって泳ぐのを助ける酵素「可溶性アデニリルシクラーゼ(sAC)」を阻害して避妊効果を得る。飲むと1時間ほどで効き目が表れ始め、2時間後なら100%避妊できるという。翌日には薬の効果が切れ、精子は元どおりに動けるようになる。
今のところマウスの実験で成功しただけだが、研究チームは3年以内に人間で臨床試験を行い、8年後の製品化を目指すという。最終的な目標は、1時間以内に効いて、6~12時間は妊娠を防いでくれる非ホルモン性の男性避妊薬の開発だ。
sACに問題がある男性は腎臓結石になりやすいが、この避妊薬は一時的に作用するだけなので大きな問題はないとされる。実験マウスにも副作用は見られなかった。
手軽で即効性があり、必要なときにだけ効果を発揮するだけでなく、パートナーの目の前で男性が避妊薬を飲んで信頼を得られるのが大きなメリットだろう。「バイアグラ発売時の3倍の普及率になる可能性がある」と予測する米コンサルティング会社もある。
[筆者]
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)
東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専攻卒業。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)、獣医師。朝日新聞記者、国際馬術連盟登録獣医師などを経て、現在、立命館大学教員。サイエンス・ライティング講座などを受け持つ。文部科学省COI構造化チーム若手・共創支援グループリーダー。第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。デビュー作『馬疫』(光文社)を2021年2月に上梓。