カミラ妃の王冠から特大ダイヤが外されたことに、「触れてほしくない」理由とは?
THE CROWN JEWEL
残虐な支配と搾取の象徴
コーイヌーアの由来については相矛盾する説があるが、専門家の意見が一致していることもいくつかある。世界で最大級の、最も価値の高い宝石の1つであること。中世のインドで発見されたこと。当時のインドはイスラム教のデリー・スルタン王朝の統治下にあったことなどだ。
その後、コーイヌーアはムガール帝国、ペルシャ帝国、シク王国など、この地域を征服した支配者たちに引き継がれ、19世紀半ばまでに、英王室のものとなった。
初めて王冠に使用されたのは、エドワード7世に嫁いだアレクサンドラ王妃の戴冠時(1902年)とされ、それが次男(ジョージ5世)の妻となったメアリー王妃に引き継がれた。さらにメアリーの次男ジョージ6世の妻であるエリザベス王太后に引き継がれた。
昨年死去したエリザベス女王が1953年に戴冠したとき、母親であるエリザベス王太后はコーイヌーアの入った王冠を着けている。この頃には世界は大きく変わっており、イギリスはインド(とパキスタン)の独立を認めたばかりだった。
エリザベスは善良な王室を演出することで、イギリスの残虐な植民地支配の記憶を取り繕うとともに、旧植民地のさらなる離反を防ごうと努力した。だが、彼女と王室そのものが、イギリスが世界で働いてきた搾取の象徴であることは歴然としている。
きらびやかな宮殿や王冠は、その証拠だ。第2次大戦後、イギリスは多くの植民地の統治権を地元住民に返還してきたが、そこで奪った多くの宝物は返還していない。
この問題は、昨年のエリザベスの死後、世界的な議論を巻き起こしてきた。もちろんそこには、金銭的な要因も絡んでいる。これらの宝石にはとてつもない価値がある。独立を果たしたものの、経済開発が遅れている国々にとって、これらの宝石の返還には大きな意味がある。
だが、何より重要なのは、象徴としての意味合いだ。大英帝国はもう存在しないのに、その象徴である王室が、かつて臣下だった国々から強奪した宝石で着飾り、「伝統を守り続ける」というのはおかしくないだろうか。
カミラの王冠からコーイヌーアを取り外しても、この問題を消し去ることはできない。コーイヌーアがあった場所には、3つのカリナンダイヤモンドがはめ込まれた。それらは20世紀初めに、イギリスの植民地だった南アフリカの鉱山で発見されたものだ。
南アフリカが今、このダイヤモンドを返してほしいと言い出したとしても全くおかしくないのだ。