最新記事

タイ

人気野党を解党させようとする体制派と、それぞれの「地雷」・タイ総選挙

2023年5月9日(火)17時18分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)

前進党が解党を命じられる可能性は貢献党よりもずっと高い。同党の前身・新未来党は19年の総選挙で第3党に躍進した後、20年2月に憲法裁判所から些細な違反で解党を命じられている。

体制派にとっての「レッドライン」は2野党の同盟だ。政治的には両党の連立は理にかなっている。前出の世論調査によれば、両党の支持率の合計は60%以上。若者には前進党が、それ以外の年齢層では貢献党が強く、有権者層も相互補完関係にある。

ただし次期首相の選出には、軍が事実上任命する上院の反対を覆すだけの下院議席が必要だ。それに不敬罪改正をはじめ、体制派が脅威と見なす進歩的公約を掲げる前進党と手を組めば、貢献党も攻撃の矢面に立たされることになる。

体制派の権力者がどんな決断を下すにせよ、国際的な影響は大きいだろう。14年のクーデター後は多くの欧米諸国がタイとの協力を部分的に停止した。

比較的小規模な前進党の解党なら、現体制の評価は何とか保たれるだろうが、有権者の40%の支持を集めると予想される貢献党の解党となれば、国際的な猛反発は必至だ(2党解党は言うまでもない)。

オーストラリア国立大学のグレゴリー・レイモンドはツイッターでこう指摘した。

「民主主義への願いを押しつぶせば、タイはさらに深い泥沼にはまり、経済的に停滞した『のけ者国家』として中国への従属を強めるだろう」

From thediplomat.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利

ワールド

パレスチナ自治政府のアッバス議長、アラブ諸国に支援

ワールド

中国、地方政府に「妥当な」価格での住宅購入を認める
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中