最新記事

中国

人口減少の中国は世界最大の不妊治療市場 独身女性の体外受精も一部で解禁

2023年5月8日(月)12時00分
不妊治療を専門とする北京の病院

IVFが中国全土で自由化されれば、既に世界最大の不妊治療市場となっている中国で需要がさらに拡大してもおかしくないため、投資家の間でも期待が広がっている。写真は不妊治療を専門とする北京の病院で4月6日撮影(2023年 ロイター/Tingshu Wang)

人口減少にブレーキをかける取り組みを進めている中国にとって、33歳の女性チェン・ルオジンさんのケースが1つの打開策になる可能性を秘めている。

離婚を経験したチェンさんが暮らす四川省の省都、成都市は今年2月、婚外子の出生登録を合法化。これによって以前は結婚したカップルにだけ付与されていた出産休暇や児童手当の受給資格が、結婚していない女性にも認められた。

チェンさんから見て重要だったのは、市当局が民間医療施設における体外受精(IVF)も解禁したことで、今彼女は妊娠10週目に入った。

物流現場の仕事に携わるチェンさんは「シングルマザーになることはみんなにとって幸せとは言えないが、私は喜んで決めた。結婚するのと同じく、しないのも個人の判断だ。私はIVFを受けている多くの独身女性を知っている」と話した。

中国政府のアドバイザーは3月、過去60年で初めて人口が減少に転じ、急速な高齢化が進行する社会への懸念から、結婚していない女性に卵子凍結とIVF治療の利用を認めるよう提案した。

IVFが中国全土で自由化されれば、既に世界最大の不妊治療市場となっている中国で需要がさらに拡大してもおかしくないため、投資家の間でも期待が広がっている。

INVOバイオサイエンスのアジア太平洋事業開発ディレクター、イブ・ライペンス氏は「中国が政策を変更して独身女性が子どもを持つのを許したなら、IVF需要の増加につながる可能性がある」と述べた。同社は現在、中国でIVF技術を展開するため当局の承認を待っている状態で、昨年には広州市の企業と提携契約を結んでいる。

ただライペンス氏は、突然需要が上向けば中国が抱える供給制約の問題も一層大きくなってしまうと警告した。

中国国家衛生健康委員会(NHC)はIVF解禁についてのコメント要請には応じていないが、多くの若い女性が結婚や子どもを持つ予定を先送りし、教育費や育児費用の高さのために婚姻率が低下してきたと認めている。

NHCの四川支部は2月に婚外子登録やIVFを承認した際に、これは長期的にバランスの取れた人口の進展を促す狙いだと説明した。

上海市と広東省も婚外子登録は認めたものの、独身女性のIVF利用は引き続き禁止している。

膨大な需要

ライペンス氏は、新型コロナウイルスの流行前にフル稼働していた中国のほとんどのIVFクリニックは、再び同じ状況に直面する公算が大きいと予想する。IVFを受けたくても受けられない人々の具体的な推計値は存在しないが、治療中の何人かの女性は、診察を受けるまで数時間かかると明かした。

四川省の重慶市でIVFを受けている34歳の既婚女性は「病院には順番待ちの非常に長い列ができている」と語った。

学術誌や業界専門家によると、中国の官民の病院やクリニックは年間で約100万ラウンドのIVF治療サイクルを提供している。他の外国は通常150万ラウンド。治療費は中国では3500―4500ドルと米国のおよそ4分の1に規制されている。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米制裁は「たわ言」、ロシアの大物実業家が批判

ワールド

ロシアの石油・ガス歳入、5月は3分の1減少へ=ロイ

ビジネス

中国碧桂園、清算審理が延期 香港裁判所で来月11日

ワールド

米声優、AI企業を提訴 声を無断使用か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中