最新記事
中国

人口減少の中国は世界最大の不妊治療市場 独身女性の体外受精も一部で解禁

2023年5月8日(月)12時00分
ロイター

中国にある官民のIVF取り扱い施設は539カ所。NHCは2025年までに230万人当たりに1カ所の割合で設置する方針で、実現すれば施設数は600カ所を超える。

中国のIVF市場は治療、医薬品、関連機器を含めて25年には足元の497億元の2倍近い854億元に達するとの調査結果もある。

中国のIVF施設に製品やサービスを供給しているメルク・チャイナのマネジングディレクター、ビビアン・チャン氏は、経済的にはあまり豊かでない内陸部の都市でも、北京や上海と似たような不妊治療施設の整備が急速に行われていると述べ、この分野で満たされない膨大な需要がある以上、中国のIVF市場の先行きを「とても楽観している」と付け加えた。

中国では男性優位の社会構造や独身女性の妊娠に対する偏見、包括的な調査が存在しない点などから、近い将来IVFを巡る政府の方針が変更されたとしても、総需要とその後の需要拡大ペースを把握するのは難しい。

しかし手掛かりはある。

不妊治療クリニックや技術に投資しているリチャージ・キャピタルのカミラ・カゾ氏は、中国国外で中国人女性に年間で50万のIVFサイクルが提供されていると語った。これは中国国外におけるIVFサイクルの3分の1に相当する。

広がる選択肢

米国ではIVFサイクルの平均成功率は52%。これに対して北京の不妊治療専門病院のディレクター、リン・ハイウェイ氏によると、中国の場合、女性が受けるストレスの高さや平均出産年齢の上昇などのため成功率は30%強しかない。

人口問題の専門家は、中国には所得の低迷や教育費の高さ、社会的な安全網の不備、男女格差といったもっと関心を払うべき別の要素があるので、不妊治療サービスを提供しても人口減少の解決にはつながらない、とも主張している。

それでもIVFを全面解禁すれば、一定の影響は及ぼしそうだ。

リン氏の試算では、既に中国でIVFを通じて生まれた子どもは30万人前後と、新生児全体の約3%を占める。

同氏は「近くこれに関連した政策が打ち出され、子どもをほしがっている多くの人々を満足させ得ると信じている」と語った。

確かに中国では近年、出産をあきらめたり先送りしたりする女性も増えてきたとはいえ、全体的に見れば母親になりたい女性はなお多い。

湖南省出身で国際金融論を専攻する22歳の大学生ジョイ・ヤンさんは、テレビでIVFの話を最初に耳にした時、中国全土で解禁してほしいと思ったと話した。そうなればパートナーは探さなくとも金銭面の条件次第で子どもが持てるからだ。

「結婚はしたくないが、それでも子どもはほしいと思う相当数の女性はいる。私はIVFを選択するかもしれない」と語った。

(Farah Master記者、Xiaoyu Yin記者)


[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


展覧会
京都国立博物館 特別展「日本、美のるつぼ」 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中