最新記事
軍縮

G7広島サミットで被爆者たちが訴える「核なき世界」の夢と現実

2023年5月18日(木)18時56分
ロイター
被爆者の森重昭さんと妻の佳代子さん

米国の大統領が初めて広島への訪問を果たした7年前、被爆者の森重昭さん(86)も核兵器のない未来への希望があった。写真は森さんと、妻の佳代子さん。11日、広島で撮影(2023年 ロイター/Sakura Murakami)

米国の大統領が初めて広島への訪問を果たした7年前、被爆者の森重昭さん(86)も核兵器のない未来への希望があった。

今週、米国の大統領が主要7カ国首脳会議(G7サミット)出席のため再び広島を訪問するなか、森さんは核兵器廃絶の夢を決して諦めていない。しかし、今やロシアのウクライナ侵攻などで世界情勢が厳しくなり、その夢を実現する難しさを直視せざるを得ない。

広島を選挙地盤とし、核兵器廃絶をライフワークとしている岸田文雄首相は、広島をサミット開催地に選定した理由として「平和を訴える上において最もふさわしい場所だ」としている。

だが、同時に今回のサミットで浮き彫りになっているのは、オバマ氏が現職の米大統領として初めて広島の地を踏んだ2016年以降に顕在化した世界の安全保障環境の大きな変化だ。

西側諸国はロシアのウクライナ侵攻により、核抑止力の重要性を再認識することになった。一方、ロシア政府は「領土の不可分性」を守るため、必要に応じて核兵器の使用も辞さないと主張している。

「ヒバクシャ」と呼ばれる日本の原爆被害者の平均年齢は85歳。その多くは、今回のサミットが彼らが生きている間に核兵器廃絶を訴える最後のチャンスになるかもしれないと考えている。広島のレガシー、つまり初めて核兵器で灰じんに帰した都市としての重みが、変革の出発点ではなく、歴史的な遺物へと後退させられるかもしれないという懸念だ。

森さんは「G7のリーダーたちには、具体的に核をゼロにすると約束してもらいたい」と期待を寄せる一方、「それは実際には難しいのではないかと思う」とも語った。

日本の与党内では長きにわたりハト派として知られている岸田首相だが、昨年、日本の戦後史上で最大となる防衛費増額を発表した。ロシアのウクライナ侵攻を機に、台湾有事に対する懸念が高まったことによるものだ。

日本は第2次世界大戦後に憲法で交戦権を放棄し、自衛隊を保有している。防衛は米国に依存している形だ。

日本人は「核の傘」を容認せざるをえないと意識しつつある、と広島大学平和科学研究センターの川野徳幸センター長は分析する。

展覧会
奈良国立博物館 特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」   鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以

ビジネス

NY外為市場・午前=円が対ドルで上昇、相互関税発表

ビジネス

ヘッジファンド、米関税懸念でハイテク株に売り=ゴー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中