最新記事
ウクライナ情勢

ウクライナ、反攻のカギは「最初の24時間」にあり──消耗戦の泥沼を回避する唯一の道とは

Ukraine's Longest Day

2023年4月25日(火)12時10分
フランツシュテファン・ガディ(英国際戦略研究所上級研究員)

ロシア軍の防御が比較的に薄い場所を見つけ、局所的で一時的でもいいから圧倒的な火力を見せつける。そして敵がひるんだところで前進し、敵陣の後方に回り込む。ウクライナ側が最初の24時間を制し、戦略的な突破口を開くには、おそらくこれしかない。

緒戦で死活的に重要なのは戦術的なリーダーシップだ。つまり戦場の最前線で臨機応変に対応し、命令を下し、結果を出せる下級レベルの指揮官の存在である。

問われる現場の指導力

そもそも軍事作戦は、とりわけ大規模な攻勢は「組織化されたカオス」でしかあり得ない。考えてみればいい。進撃する部隊が道を間違える可能性もある。敵の通信妨害で部隊間の連携が崩れる恐れもある。進撃中に、敵がどこに潜んでいるかを正確に把握することも難しい。

こうした不確定要素、つまりカオスに打ち勝ち、少なくとも軽減するためにはしっかりとした戦術的リーダーシップが欠かせない。

戦場での統率力も死活的に重要だ。これは現場の兵士たちの士気を大きく左右する。指揮官が戦場での混乱に圧倒され、うろたえるようでは、兵士たちは指揮官を信頼できず、たちまち士気を失う。そうなったら、攻撃の緒戦でパニックに陥るのはウクライナ兵のほうだ。

前線の戦術的指揮官はロシア軍の防御の弱点を見抜き、できるだけ多くの機甲部隊をその場に投入し、素早くロシア軍の後方に回らせなければならない。

そのためには、たとえ空からの支援を望めない地点であっても進出し、敵と戦う必要があるだろう。大きなリスクを伴うから、隊員の士気が高くなければ勝ち抜けない。

反転攻勢を仕掛ける前に、こうした戦術的リーダーシップと兵員の士気において優位に立っていること。これが大事だ。そうすればパニックを起こさず、最初の24時間を超えても戦術的優位を保てる可能性が高い。

戦術的サプライズと現場の統率力、兵員の士気に加えて、反転攻勢の成否を左右する要因がもう1つある。ロシア側が後方待機の部隊を前線へ送るのをどれくらい遅らせられるかだ。ここでも最初の24時間がカギとなる。もしも最前線でパニックが起き、逃げ帰る兵士や車両で道路が塞がれたら、後方の部隊はなかなか前線に到達できない。

いずれにせよ、来るべき春の攻勢の最初の24時間はウクライナの「いちばん長い日」になるだろう。現在のような砲撃の応酬を繰り返す消耗戦が長く続けば、どう見てもウクライナ軍は苦しい。だから、まずは反攻の緒戦で敵の指揮命令系統を麻痺させ、兵員のパニックを誘い、敗走させること。それができれば、少なくとも戦術的な戦果にはなる。

むろん、それが長期にわたる戦略的優位に、いわんやこの戦争の勝利につながるかどうかは、また別な話だが。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中