「多くは爆発が死因...」ウクライナ戦争で黒海のイルカが絶滅の危機...動物への影響があまり語られない、3つの理由
Dolphins in Black Sea
イルカの死は黒海沿岸諸国全体で報告されている(トルコ・イスタンブールの湾) ERHAN SEVENLERーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES
<絶え間ない爆発や軍事用ソナーの影響で、イルカの死亡率が急上昇している>
ウクライナ戦争で、黒海に生息するイルカが大量に死んでいるという。ウクライナ、ロシア、ジョージア、ブルガリア、ルーマニア、そしてトルコに囲まれた黒海は、肥沃な沿岸地帯を持つと同時に、19世紀のクリミア戦争など歴史的に大きな戦争の舞台となってきた。
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英王立協会の専門誌バイオロジー・レターズ(オンライン版)に4月初めに掲載された研究論文によると、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻以来、数万頭のイルカが命を落とした。このままでは黒海のイルカは絶滅する恐れがあると、論文の主筆者であるジェシュフ大学(ポーランド)のエバ・ベングジン教授(動物学)は警告する。
いつの時代も、戦争は人間以外の生物にも多くの死をもたらしてきた。だが、その規模は測定が難しい上に、多くの場合は人間の悲劇にかき消されてしまう。その点、ベングジンらの研究は、戦争で犠牲になっているのが人間だけではないという事実を世界に突き付けている。
「野生動物が戦争という破壊行為の影響と無縁ではなく、しばしば大きな苦痛を被ったり、死に至っている事実を明らかにしたかった」と、ベングジンは語る。彼女によると、戦争が動物に与える影響があまり語られてこなかった理由は、主に3つある。
「第1に、人間の犠牲に大きな注目が集まり、動物の窮状はそこに埋没してしまう。第2に、戦争中に実態を調査することが非常に難しい。第3に、平和なときでも野生動物の死亡率を把握するのは難しいから、戦時中はほぼ不可能であることが多い」
実際、戦争がクジラ類(クジラやイルカなどの海洋哺乳類)の死亡率に与える影響は、これまで調査されたことはない。「唯一あるのは、比較的短期間の軍事演習が与える影響の調査で、クジラ類に致命的な影響を与えることが分かった」と、ベングジンは言う。
今回の研究には、ウクライナ国立トゥズリ潟湖公園の生物学者イバン・ルシェウが深く関わっている。同公園は黒海沿岸に位置する広大な湿地帯で、野鳥や魚など生物多様性の宝庫として知られるが、ルシェウが特に観察してきたのはイルカだ。
そのルシェウが、今回の戦争が始まって以来、海岸に打ち上げられるイルカの死骸が増えたことに気が付いた。他の沿岸諸国からも同じような報告があったという。
これは「とりわけ懸念される」と、ベングジンは言う。黒海に生息する3種のクジラ類(ネズミイルカ、マイルカ、ハンドウイルカ)は、いずれも国際自然保護連合(IUCN)が世界の絶滅危惧種を集めたレッドリストに入っているのだ。「そこで、戦争がクジラ類にどのような影響を与えるのか科学的な調査をすることにした」