最新記事
飛行機

「見捨てられてなどいない」世界最大の輸送機ムリーヤの復元作業が始まる ウクライナ

2023年4月11日(火)18時30分
青葉やまと

CNNは「ロシアによる2022年2月のウクライナへの侵攻後、数時間で破壊された」と振り返る。世界で最も重量のある航空機であり、現役で使用されている輸送機としては最長となる翼幅88メートル超を誇っていた。侵攻後すぐにロシア軍が、キーウの北西に位置するアントノフ空港へ攻め込み、ムリーヤはこの混乱に巻き込まれた。

ウクライナ防衛企業のウクロボロンプロム社は昨年2月27日、「侵攻当時、An-225ムリーヤはホストーメリ空港(アントノフ国際空港)で整備中であったため、ウクライナを離れる時間的猶予がなかった」と発表している。

その後ムリーヤは損傷後長らく、キーウ郊外の空港で無残な姿をさらしていた。機首は焼け落ち、前方からは内部の空洞が顔を覗かせている状態だ。左翼は辛うじて維持されているが、右翼は重量に耐えきれず機体から離脱し、3発のエンジンが直に床面に接している状態であった。

ウクライナ国民に伝える、見捨てられていないというメッセージ

ムリーヤはウクライナ語で「夢」を意味する。ロシアの攻撃により大破した機体が復活へ動くことで、ウクライナの国民の気力をつなぐ象徴となると期待されている。

国営アントノフ社の副社長兼チーフエンジニアであるウラジスラフ・ブラシク氏は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、「人々は希望を持つべきです」とムリーヤ復元の意義を語る。「この飛行機は見捨てられてなどいないのだと、皆に知ってもらう必要があるのです。やることはたくさんありますが、私たちは取り組みを始めています」

復元へ動き出したムリーヤだが、道は平坦ではない。ロシアからの戦禍が渦巻くいま、軍事的リソースの確保に重点を置くべきだとの声がウクライナ国内からも聞こえる。航空アナリストのベレリー・ロマネンコ氏は、ウクライナのメディアに対し、「言葉も出ません」と私見を語った。「軍隊のために緊急に必要とされていることの実施」に集中すべきだと彼女は言う。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、復元プロジェクトには5億円ドル(約660億円)の費用が見込まれているが、調達手段は未定だという。損傷機をもとにした復元機について、耐空性能を欧米の当局に証明することは難しいとの指摘もあるようだ。

ウクライナの「夢」の復元は実現するのか、計画の行く末が注目される。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏、政権ポストから近く退任も トランプ氏が側

ワールド

ロ・ウクライナ、エネ施設攻撃で相互非難 「米に停戦

ビジネス

テスラ世界販売、第1四半期13%減 マスク氏への反

ワールド

中国共産党政治局員2人の担務交換、「異例」と専門家
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中