最新記事
トランプ

34件もの罪状を抱えた、トランプ訴追劇場の今後の行方は?

Trump Indicted in NY

2023年4月6日(木)15時26分
マーク・ジョセフ・スターン

実際、投票日の直前にこのスキャンダルが明るみに出ていれば、トランプは当選できなかったかもしれない。

その後、コーエンはこの一件で起訴され、選挙資金法違反を含むさまざまな容疑について有罪を認めたが、あくまでもトランプの指示に従ったまでだと主張した。取引の詳細に関する両人の会話の音声記録も存在する。

では、なぜ主犯格のトランプが何の罪にも問われず、脇役のコーエンだけが禁錮3年の実刑を言い渡されたのか。そこに大きな疑問があったのだが、ブラッグらは根気強く捜査を続け、前大統領の罪を問えるだけの証拠を積み上げて大陪審に示し、起訴相当という判断を勝ち取った。

なお、業務記録の改ざんという犯罪の時効は5年とされるが、被告人がニューヨーク州外にいた時期は算入されないから、まだ時効は成立していない(周知のとおりトランプは少なくとも4年を首都ワシントンで過ごしている)。

現時点で知られている検察側の論証には一貫性があるが、かなり難解だ。まずニューヨーク州法で業務記録の改ざんが重罪と見なされるのは「詐取の意図」に「他の犯罪を行う意図、またはその遂行を幇助し、または隠蔽する意図」が含まれる場合に限る。一方でトランプによる支払いは、選挙資金の透明性や寄付の上限に関する州法にも連邦法にも違反していると思われる。

つまり、問題の業務記録改ざん(コーエンへの弁済に関する虚偽記載)は別の犯罪(違法な政治献金)につながっており、従ってニューヨーク州法では「重罪」に当たることになる。

かくしてブラッグは大陪審を説得し、起訴に持ち込んだ。しかし公判で勝つのは難しい。検察側は陪審員全員の合理的な疑いを超えて、犯罪の各要素を立証する必要がある。

例えば、選挙資金法違反になることをトランプが事前に知っていたと証明することだ。ここで成功するにはコーエンを証言台に立たせ、彼の言葉は前大統領の言葉よりも信頼できると陪審員に思わせる必要がある。

それは難しい注文だ。コーエンが情けない重罪人だからというだけではない。ダニエルズの口止めにトランプが関与していたことを示す証拠はあるが、トランプに自身の選挙運動を助ける目的で記録を改ざんする不正な「意図」があったと証明する決定的証拠はまだ示されていない。

230411p30_TRP_02.jpg

トランプを起訴したブラッグ検事の勝算は DREW ANGERER/GETTY IMAGES

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マグニフィセント7決算発表開始、テスラなど=今週の

ワールド

イスラエル首相「勝利まで戦う」、ハマスへの圧力強化

ワールド

対米関税交渉、日本が世界のモデルに 適切な時期に訪

ワールド

米イラン、核合意への枠組みづくり着手で合意 協議「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中