34件もの罪状を抱えた、トランプ訴追劇場の今後の行方は?
Trump Indicted in NY
テキサス州で行われた選挙イベントに登場したトランプ(3月25日) SERGIO FLORESーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<刑事事件で起訴された初の大統領経験者となったトランプ。「口止め料」隠蔽のための業務記録改ざんは不発でも、疑惑がいっぱい>
3月30日、ついにドナルド・トランプが起訴された。大統領選の投票日を目前に控えた2016年10月、元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズに「口止め料」を支払うに当たり、トランプが法を犯したとされる。ニューヨーク州マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事が提案し、マンハッタンの大陪審が投票で起訴相当と認めたものだ。
ただし公判で陪審員全員を説き伏せ、有罪とするのは難しそうだ。不可能ではないが、かなり厳しい。なにしろ被告は前大統領で、しかも来年の大統領選への立候補を表明している。その男を裁こうというのだから、地方検事にとっては、いや刑事司法のシステム全体にとっても、一世一代の大勝負となる(なお本稿執筆時点で起訴内容の詳細は発表されていない)。
トランプの訴追に向けた司法手続きはほかにも進んでいる。起訴までこぎ着けたのは本件が最初だが、有罪宣告までのハードルは最も高い。そもそも大統領経験者の起訴はアメリカ史上初であり、トランプ陣営は既に再選に向けて動き出している。共和党から「政治的弾圧」だとする非難の大合唱が起きるのは必至であり、検察側は最初から防戦を余儀なくされる。
なにしろ本件を取り巻く状況は極めて異例であり、検察側は前例や過去の判例を引き合いに出して容疑を固めることができない。だからトランプ側が、起訴の正当性を争う余地はいくらでもある。
疑われている事実経過は次のとおりだ。16年のある時期、ダニエルズは代理人を通じてタブロイド紙のナショナル・エンクワイアラーに、トランプとの不倫に関する暴露話の提供を持ちかけた。だが同紙発行人のデービッド・ペッカーはトランプの長年の友人で協力者でもあったから掲載を拒み、ダニエルズが暴露をもくろんでいることをトランプ側に知らせた。
州法では重罪に相当
そこで、長年トランプの尻拭いをしてきた弁護士マイケル・コーエンの出番となり、彼は自分のペーパーカンパニーを通じて、ダニエルズに口止め料として13万ドルを渡した。
これを受けて、トランプは自分の会社からコーエンに42万ドルを支払ったが、その際、この支出を架空の契約に基づく弁護士費用として計上した。大統領候補である自分が性的スキャンダルの暴露を防ぐために口止め料を払った事実を隠蔽するためだったが、この行為が業務記録の不正な改ざんに当たるとされる。