最新記事
補助犬

知られざる「補助犬用トイレ」の現状──パートナーと一心同体の補助犬も外出先で排泄の場を必要としている

2023年3月31日(金)14時30分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

JRさいたま新都心駅構内の補助犬用トイレ 写真:内村コースケ

<身体障害者の目、耳、手足の役割を果たす盲導犬、聴導犬、介助犬。皆さんは、これら「補助犬」のトイレ事情を考えたことがあるだろうか?私たちが外出先で職場や商業施設のトイレ、公衆トイレを利用するように、パートナーと一心同体の補助犬たちも外出先で排泄の場を必要としているのだ。

補助犬用トイレは、2020東京オリンピック・パラリンピックを境に日本でも駅・空港、公共施設などにポツポツと整備されてきてはいるが、まだまだ数は限られているし認知度も低い。一方で、有識者らが補助犬用トイレについて話し合う公開研究会が今年初めて開かれるなど、関心は徐々に高まっている。その現状と課題を紐解いてみたい。>

どこへでも入れる補助犬は指示を受けてから排泄する

A1_03242.jpg

電車に乗車中のアイメイト

身体障害者補助犬(補助犬)とは、身体障害者補助犬法に基づいて、障害をサポートするために訓練・認定された犬のこと。視覚障害者の歩行を助ける「盲導犬」、聴覚障害者に音を知らせる「聴導犬」、肢体不自由のある人の日常生活動作をサポートする「介助犬」の3種類がある。これらの犬たちは、通勤、ショッピング、旅行など、パートナーの行く先に同行し、公共交通機関や商業施設、レストランなどへの乗車・入店も法律で認められている。

身体障害者補助犬法では、補助犬の乗車・入店について、「補助犬の同伴を受け入れるように努めなくてはならない」としている。これは、補助犬は単なる犬ではなく、身体障害者の「体の一部」として社会参加が認められるという考え方に基づいている。障害者差別解消法でも、補助犬の存在を理由とした入店拒否は障害者自身に対する差別に等しいため、あってはならないことだとしている。

犬が人と異なるのは、人間に比べてトイレを我慢できるとされていることだ。補助犬はそれに従って、パートナーの指示があってはじめて排泄するよう訓練されている。たとえば、アイメイト(「公益財団法人アイメイト協会」出身の盲導犬)の場合、「ワン・ツー、ワン・ツー」と声をかけながら自分の周囲を円を描くように歩かせることにより、排泄を促す(「ワン」は小便、「ツー」は大便の隠語)。だから、時と場所を選んで用を足すことができ、「補助犬用トイレ」という概念も成り立つのだ。

リラックスできる人目につかない場所で

7R306637.jpg

人目につかない建物裏手に設けられたイベント会場の臨時「ワン・ツー」場所

では、補助犬専用のトイレは現在、日本国内にどれくらいあるのだろうか。「全日本盲導犬使用者の会」のホームページには、成田空港、京王プラザホテル(東京都新宿区)、東京・豊島区役所など15カ所が挙げられている。筆者が知る限りでは、新国立競技場などそのほかにも5カ所以上はあるので、実数は20〜30カ所ではないだろうか。また、多機能トイレは補助犬も利用できることになっており、数年前からそれを周知するために入り口に「ほじょ犬マーク」を掲示する施設が多くなっている。

しかし、ユーザーが実際にどんな場所に、どんな仕様のトイレを求めているのか、そもそも専用トイレは必要なのか、多機能トイレだけで良いではないか、といった議論はまだまだ進んでいない。その中で、今年3月20日、工学、福祉、文化などのさまざまな分野の専門家で作る「一般社団法人日本福祉のまちづくり学会」主催の公開研究会「補助犬用トイレの国内外の事例解説とユーザーニーズ・評価〜補助犬用トイレ、どう整備する」が、ZOOMミーティングで開かれた。補助犬ユーザーのほか、福祉関係者やトイレメーカーの社員といった一般参加者を交え、有識者による海外と国内の事例紹介、アイメイト(盲導犬)使用者による実状報告などがあった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促

ビジネス

米アポロ、後継者巡り火花 トランプ人事でCEOも離

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中