ミャンマー軍政、スー・チー率いる民主派政党を解党 総選挙は軍政支持派一色に
総選挙を軍は不正としてクーデター
NLDはミャンマーの民主化の動きの中で1988年に結成された。その後、独立の父として国民の信頼と人気を集めるアウン・サン将軍の娘であるアウン・サン・スー・チー氏が指導者として迎えられ、民政移管後の2015年の総選挙で圧倒的支持を集め事実上の政権を担った。2020年の総選挙でも同様に多くの支持を獲得して政権を継続。スー・チー氏は外国人と結婚したミャンマー人は国家元首に就任できないとの規定から国家最高顧問兼外相として国政を担ってきた。
しかし2020年の総選挙で軍の既得権益が脅かされることを危惧したミン・アウン・フライン国軍司令官が「選挙には不正があった」としてクーデターを起こし、スー・チー氏やウィン・ミン大統領らが逮捕され民主政府は崩壊してしまった。
その後NLDの関係者は2021年4月に反軍組織「国家統一政府(NUG)」を立ち上げスー・チー氏やウィン・ミン氏らを指導者としてNLD幹部や少数民族武装勢力関係者を加えて民主化運動を継続していたが、軍政はNUGを非合法組織としてNLDと同様にメンバーの弾圧に乗り出した。
現在スー・チー氏やウィン・ミン氏が逮捕されているためNUGは少数民族であるカチン民族出身のドゥワー・ラシ・ラ氏が大統領代行が就任している。
また軍による強権的弾圧や一般国民を含めた人権侵害事案が相次いだことから同年5月にNUG傘下に武装市民組織としてのPDFが立ち上げられ、各地で軍に対して武装抵抗を行うようになり、治安が極端に悪化し続けているという経緯がある。
不確定要素多く選挙実施には難問も
軍政はNLDなどの反軍政党を解党処分としたことでとりあえず次期総選挙には親軍政党だけの参加が決まり、USDPの圧倒的勝利は確実となっている。こうした選挙を通じて軍政は「公正で自由な選挙」を内外にアピールする思惑だが、必ずしもその通りに運ぶかどうかについては前途多難な面も指摘されている。
まず一番の要素は治安の確保で、PDFや少数民族武装勢力との戦闘が激化している現状では親軍派の有権者や投票所の安全確保が課題となることに加えて、反軍姿勢の国民の投票ボイコットや反対票を「どう操作」して勝利を確定させるかという問題もある。
国際的な選挙監視団が受け入れられることは不可能だが、軍政と関係が深い中国やカンボジアなどが「選挙過程や結果にお墨付き」を与えることも予想されている。
いずれにしろ早期の選挙実施を目論む軍政が治安安定を目指して今後各地で反対勢力やシンパの国民への暴力を激化させる可能性がある。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など