最新記事
ウクライナ情勢

誰もプーチンを擁護しないが、欧米諸国も支持しない──グローバルサウスが冷ややかに見て取る「偽善」と2つの溝

Two Splits on Ukraine

2023年3月7日(火)14時54分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者)
ウクライナ

欧米諸国の言葉とは裏腹にウクライナでは過酷な戦闘が続いている AP/AFLO

<政府高官らの「表向きの楽観論」と「非公式の場での悲観論」のギャップ。もっと怖いのは、バイデン大統領の言葉がどんどん壮大になっていること>

毎年2月に世界各国の首脳が集まって、外交や安全保障を話し合うミュンヘン安全保障会議。今年の話題を独占したのは、当然、ウクライナ戦争だった。ただ、出席者の間には、2つの重要なギャップがあるように感じられた。

第1のギャップは、この戦争に関する幅広い認識や、好ましい対応策に関する欧米諸国とグローバルサウス(途上国の大半が位置する南半球)の見解の違いだ。

欧米諸国のリーダーたちはウクライナ戦争を、現代の世界でダントツに重要な地政学的問題と見なすきらいがある。アメリカのカマラ・ハリス副大統領は「世界の隅々にまで影響を及ぼす」問題だと語り、ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は、ロシアの完全な敗北と撤退以外の結果は「国際秩序と国際法の終焉」を意味すると主張した。

つまり、ウクライナ戦争には、法の支配や自由世界の未来が懸かっているというのだ。だから、ウクライナが迅速かつ断固たる勝利を収められるように、必要な武器や援助をいくらでも提供するべきだと、彼らは主張する。

だが、欧米諸国以外の世界の考えは違う。もちろん、ロシアのウクライナ侵攻や、ウラジーミル・プーチン大統領を擁護するリーダーはいなかった。だが、インドやブラジル、サウジアラビアをはじめとする「それ以外の国々」は、欧米主導の対ロシア制裁に参加していないし、この戦争をさほど終末論的に見ていない。

これはそんなに意外な反応ではない。彼らにしてみれば、法の支配や国際法の遵守を強いる欧米諸国の態度は偽善にほかならず、自分たちが道徳的優位にあるかのような押し付けに憤慨している。

そもそも、欧米諸国が遵守を強いる国際法は、欧米諸国が作ったものであり、都合が悪いときは平気で踏みにじってきた。2003年のアメリカのイラク侵攻がいい例だ。あのとき法の支配に基づく秩序はどこにあったのかと、欧米以外の国は考えているのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウルグアイ大統領選、左派の野党候補オルシ氏が勝利 

ワールド

英国の労働環境は欧州最悪レベル、激務や自主性制限で

ビジネス

中国人民銀、1年物MLFで9000億元供給 金利2

ワールド

EU、対米貿易摩擦再燃なら対応用意 トランプ政権次
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中