最新記事
ウクライナ情勢

誰もプーチンを擁護しないが、欧米諸国も支持しない──グローバルサウスが冷ややかに見て取る「偽善」と2つの溝

Two Splits on Ukraine

2023年3月7日(火)14時54分
スティーブン・ウォルト(国際政治学者)

クリミアより気候変動

グローバルサウスの国々は、ウクライナ戦争の行方が21世紀の世界を決定付けるという欧米の主張にも納得がいかない。彼らに言わせれば、クリミアやドンバスの運命よりも、自国の経済発展や気候変動、移民、テロ、中国やインドの台頭のほうが、よほど人類の未来に大きな影響を与える。

大体ウクライナ戦争は、食料価格の高騰などグローバルサウスに大打撃を与えており、勝利するまでウクライナに戦争を続けさせるよりも、早く戦争を終わらせることのほうが、これらの国々にとっては重要だ。

前述したように、だからといってグローバルサウスがロシアを支持しているわけではない。ただ、これらの国には独自の国益があり、彼らはそれを重視した政策を取りたい。これはウクライナ戦争があろうがなかろうが、欧米諸国とそれ以外の国々の間の溝は続くことを意味する。

ミュンヘンで気が付いたもう1つの大きなギャップは、ウクライナ戦争の行方について政府高官らが表向きに示す楽観論と、非公式な場で見せる悲観論の差だ。ハリスやベアボック、アントニー・ブリンケン米国務長官らが登壇したメインイベントでは「西側」の結束や最終的な勝利など威勢のいい言葉が相次いだ。

ミュンヘン会議の直後に、ジョー・バイデン米大統領がウクライナを電撃訪問してウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会ったときもそうだった。まだ厳しい日々が続くだろうが、やがて手にする勝利に焦点が当てられていた。

だが、非公式の場で交わされた会話は、もっと暗いものだった。今後1年間、どんなに莫大な支援をウクライナに与えても、戦争が早く終わるとか、ロシアに奪われた領土(クリミアを含む)をウクライナが奪還できると語る人はいなかった(ただし筆者が出席した非公式ミーティングに、主要国のトップクラスの政府高官はいなかった)。

実際、最新鋭の戦車や陸軍戦術ミサイルシステム、戦闘機など、より致死力の高い武器の援助を求める声が高まっているのは、ウクライナの現状が主要メディアが報じるよりもひどいという認識を反映しているのかもしれない。

筆者が話を聞いた人のほとんどは、過酷な膠着状態が続き、ひょっとすると数カ月後に停戦に至る可能性があると言っていた。つまり欧米のウクライナ援助が目指しているのは、勝利ではない。本当の目標は、いざというときにウクライナが停戦交渉を有利に運べるようにすることだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国自動車販売、6月は前年比+18.6% 一部EV

ワールド

ガザ停戦は可能、合意には時間かかる=イスラエル高官

ワールド

アングル:中国人民銀、関税懸念のなか通貨安定に注力

ワールド

ジェーン・ストリート、インド規制当局に異議申し立て
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中