最新記事
宗教

カトリックが避妊をついに容認? 改革に踏み切れば13世紀以来の見直し

RETHINKING BIRTH CONTROL

2023年3月20日(月)09時07分
ピーター・シンガー(米プリンストン大学生命倫理学教授)
フランシスコ教皇

フランシスコ教皇の下で避妊問題への姿勢は変わるのか REMO CASILLIーREUTERS

<1960年代には経口避妊薬の服用や、女性の「安全日」の性交渉については、教会内で既に容認されていたが、教皇の相次ぐ死によって議論が立ち消えになった経緯がある。今度こそ中世以来の変更か?>

ローマ・カトリック教会は、避妊を禁じる教義を見直そうとしているのか。カトリック系の著名な保守派論者の間には、その可能性を牽制する動きが見られる。そのこと自体、フランシスコ教皇の下で変化への動きがあることの表れだ。

13世紀のトマス・アクィナス以降、神学者たちは避妊は過ちだと主張してきた。しかし1960年になって経口避妊薬が認可され、やがて多くのカトリック教徒が避妊をしている実態が明らかになると、教会内で教義の見直しを求める声が上がった。

これを受けて教皇ヨハネ23世は避妊に関する教皇委員会を立ち上げたが、報告を受ける前の63年に死去。委員会が後任の教皇パウロ6世に提出した報告書は、いわゆる女性の「安全日」に夫婦が性交渉を行うことは教会内で既に容認されていると指摘。

「自然から授かったものを人為的にコントロールするのは自然」だとして、避妊が「責任を持って子を成す秩序ある関係」の範囲内で行われるなら許容されると結論付けた。これに反対する少数意見を支持したのは、72人の委員のうち4人にとどまった。

だが報告書の提出からわずか2年後の68年、パウロ6世が回勅「フマネ・ビテ(人間の生命)」を発表し、「性交渉の前、行為中、後において明確に避妊を目的とする行為」は「産児調節の正当な手段として絶対に容認できない」とした。これは大半の信者が驚きとともに受け止めた。

「フマネ・ビテ」の趣旨が保たれたのは、教皇たちの相次ぐ不慮の死のためだった。改革派のヨハネ23世がもっと長く生きていたら、教皇委員会の多数意見を受け入れたかもしれない。パウロ6世の後継となったヨハネ・パウロ1世が在位わずか33日で急逝しなければ、避妊厳禁の教義は改められていたかもしれない。彼は司教時代に、避妊についてリベラルな考えを示していた。

信者の9割以上が賛成する国々

「フマネ・ビテ」が生き残ったのは巡り合わせでしかないのに、カトリック系保守派論者は避妊の問題はこの文書によって決着がついたと考えている。だが昨年、教皇庁生命アカデミーが「生命の神学的倫理」を発表し、教義の永続性に疑問を投げかけた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中