最新記事

中台関係

不自然に多い、中国漁船の「うっかりケーブル切断」事故の謎

A New-Style Blockade

2023年2月28日(火)14時08分
エリザベス・ブラウ(アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)
中国船

「砂の採取」で海底ケーブルが切断される例も多い(スリランカ沖で土砂を取り除く中国の船) ATUL LOKEーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<2月上旬、中国沿岸から20キロ足らずの台湾・馬祖列島と台湾本島を結ぶ海底ケーブルが2本切断。通信インフラを狙ったグレーゾーン攻撃か?>

アメリカが気球を警戒して空を見上げている間に、中国は海で行動を起こしていたようだ。2月上旬、中国の沿岸から20キロ足らずのところにある台湾の離島、馬祖列島と台湾本島を結ぶ海底ケーブルのうち2本が切断された。

2月2日に中国籍の漁船が、8日にもやはり中国籍の貨物船が、馬祖列島の近くを航行中に切断したとみられる。2本目の直後に台湾の国家通信放送委員会(NCC)の翁柏宗(ウォン・ポーツォン)副主任委員兼報道官は記者団に、意図的であることを示すものはないと述べた。

確かに海底ケーブルが損傷すること自体は珍しくないが、立て続けに2本も切断されるのは、偶然ではない可能性が高い。

馬祖列島の住民およそ1万2700人は現在のところ、限られたインターネットアクセスしか利用できずにいる。台湾の民間通信事業者の中華電信(CHT)は島内の店舗に24時間使える無料Wi-Fiを設置し、電話や通信用に予備のマイクロ波伝送装置を稼働させた。

修理のための船が現地に到着するのは早くても4月20日で、作業には時間がかかりそうだ。CHTによると、付近の海底ケーブルは2021年に5回、昨年は4回、破損して通信障害が起きている。

今回は2本とも切断されており、被害はより深刻だ。通信速度が少し低下するだけで、日常生活は麻痺してしまう。住民がこのような障害とどう向き合うのか、馬祖列島が台湾本島とどのように通信を続けるのか、中国政府は注視している。

中国は彼らが「中国側から離反している」と見なすこの地域を前々から軍事的にも重視している。1958年に中国人民解放軍は、いずれも福建省沿岸で中国大陸に近接している馬祖列島と金門島を砲撃し、海峡の緊張が高まった。

昨年8月にはナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問したことへの抗議と称し、人民解放軍が台湾本島を取り囲むように海と空で軍事演習を展開した。その規模と行動から、かなり前から計画していたと考えられる。

近年、中国の船舶が周辺海域の島々を結ぶ海底ケーブルを頻繁に破損させていることは、注目に値する。世界中で380本の海底ケーブルがどこを通っているのか、漁船の網などが誤って破損しないように、詳細な位置を記した地図まであるのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中