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ウクライナ避難民2000万の悲と哀──将来を見通せない人々...1年目の本音は

No Place Like Home

2023年2月28日(火)14時10分
マイケル・ワシウラ(オデーサ在住ジャーナリスト)
ウクライナ西部の大都市リビウの鉄道駅でポーランド行きの列車に乗り込んだ家族と別れを惜しむ男性

ウクライナ西部の大都市リビウの鉄道駅でポーランド行きの列車に乗り込んだ家族と別れを惜しむ男性 MYKOLA TYSーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<故郷を脱出した今世紀最大規模の難民たちは侵攻1年目に何を思う>

1年前まで、ウクライナの人口は約4000万だった。しかしロシアの大規模な軍事侵攻が始まってからの12カ月で、2000万人近くが住む家を追われた。今世紀最大の難民・避難民危機だ。果たして、この人たちが故郷に戻れる日は来るのだろうか。

容赦ない砲撃戦は日々新たな難民・避難民を生み出している。シリアやアフリカの難民よりは恵まれているかもしれないが、この人たちにも先は見えない。

例えば南部ヘルソン州から逃れてきたユーラ・スコボレフの場合。彼には妻と5人の子がいて、村がロシア軍に占領されてからの8カ月を耐え抜いた。しかし皮肉なもので、ウクライナ軍が村を奪還した途端、ドニプロ川の対岸に撤退したロシア軍からの砲撃が始まった。それで、やむなく黒海に面する港町オデーサまで逃げてきた。

「まだ村に残っている知人に電話すると、飼っている牛や鶏の鳴き声が聞こえるよ。それで、何も変わりないと言うんだが、5分もすると『ちょっと待ってくれ、地下室に移らないと。また奴らが撃ってきた』って感じだ」。スコボレフは記者にそう言った。

彼とその家族は今、オデーサの仮設住宅に暮らしている。定住先の当てはない。

似たような境遇のウクライナ人はたくさんいる。現時点で、EUのどこかの国にいる人が約800万人。国内にとどまり、わりと安全な西部地方でアパートを借り、あるいは親戚の家に身を寄せ、あるいは国内外の支援団体が用意した宿泊施設に住む人が約600万人。ほかに、(自発的か強制されたかは別として)国際法で認められたロシア国境線の内側に移ったウクライナ人が300万人近くいる。

難民・避難民の多くは帰郷を望んでいるが、既に帰還できた人は全体の4分の1に満たない。今のところ、首都キーウやリビウ、オデーサなどの都市、あるいはかつて激戦の繰り広げられたミコライウやハルキウに帰還した人は500万人程度とされる。今なお避難生活を送る人々にとって、昨年2月24日以前の暮らしに戻れる可能性は日増しに薄くなっている。

紛争後の復興プロセスに詳しい米ランド研究所の上級研究員シェリー・カルバートソンが言う。「今回の事態も過去の多くの紛争と同じ。違うと考える理由はない。そうであれば、住む家を追われたウクライナ人のほとんどは二度と故郷に戻れない」

証言で見えてくる事実

もう1つ、各地の難民・避難民に寄り添ってきた専門家の指摘する懸念がある。敵のミサイルやロケット弾、拷問やレイプの脅威にさらされて、しかもそれまでの暮らしを奪われてしまったトラウマ(心的外傷)は人々の心に長く残るということだ。

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