最新記事

トルコ

全てエルドアンのせい──トルコの大惨事は大統領の人災だ

Erdogan Invited the Tragedy

2023年2月21日(火)11時40分
ギョニュル・トル(米中東研究所トルコ担当理事)

230228p36_TRK_02.jpg

地震で被災した村を訪れ、犠牲者に哀悼の意を表するエルドアン大統領 BESTAMI BODRUKーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

全てはエルドアンのせいだ。彼は自分一人に権力を集中させ、公共機関の独立性を奪い、自分に忠実なだけで無能な者を要職に就け、自分の決定に従わない市民団体を一掃するという乱暴な政策を取り続けてきた。

地震の多いトルコにとって、災害対応に当たるAFADは極めて重要な国家機関だ。だが、その予算は首相府宗教庁(本来は宗教団体を監督する役所だったが、エルドアン政権下では政府の施策に宗教的正当性を与えるためのツールと化している)の予算より少ない。ちなみに、現在のAFADで災害時緊急対応を仕切る人物も神学者で、災害対策の経験は皆無だ。

99年には地震発生から数時間で現場に急行し、捜索・救助活動に当たった軍隊も、16年のクーデター未遂以後は弱体化し、エルドアンの私兵と化しつつある。

かつての軍隊は、災害時には政府の命令がなくても出動できた。しかしエルドアン政権は、この権限を取り消した。そのせいで今回は、被災地への部隊派遣が遅れた。

巨大地震は多くの人命を奪う。だがトルコのような国では人災で被害者が増える。建物の耐震基準が守られず、実務能力がなくても大統領への忠誠心があれば要職に就ける世の中で、公共機関には独立性がなく、良心的な市民団体は排除されているからだ。

私の妹とその夫が身内の遺体を瓦礫の下から引きずり出し、きちんと埋葬しようとしていた頃、エルドアンは国営放送を通じて、国の対応に不満を言う者は「恩知らず」だと罵り、今回の惨劇も以前の災害も「運命」として受け入れろと語っていた。

でも、今はもうみんな気付いている。この国の抱える厄介な問題の全ては一人の男に行き着くのだと。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

製造業PMI11月は49.0に低下、サービス業は2

ワールド

シンガポールGDP、第3四半期は前年比5.4%増に

ビジネス

中国百度、7─9月期の売上高3%減 広告収入振るわ

ワールド

ロシア発射ミサイルは新型中距離弾道弾、初の実戦使用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中