最新記事

トルコ

全てエルドアンのせい──トルコの大惨事は大統領の人災だ

Erdogan Invited the Tragedy

2023年2月21日(火)11時40分
ギョニュル・トル(米中東研究所トルコ担当理事)

現地で唯一の空港の滑走路は、割れて使えなくなった。活断層の真上に造られていたからだ。工事をしたのはエルドアンとつながる会社だった。

今回だけではない。大統領絡みの利権で決まったインフラ事業は、過去にも数々の悲劇を招いてきた。例えば昨年、豪雪に見舞われた南西部の都市イスパルタでは何週間も停電が続き、複数の住民が凍死した。あそこの電力事業は民営化され、大統領の身内が支配する複数の企業に売り飛ばされていた。

そうした企業は不慮の災害への備えを怠り、いざ停電が起きても対応できず、野党系の支援団体が現地に入るのも妨害した。当然のことながら、住民の間からは激しい怒りの声が上がった。

2018年には北西部の町チョルルで保守作業の不備による列車事故が発生し、子供を含む25人が死亡した。14年にはエーゲ海に面するソマの炭鉱で爆発が起き、坑内にいた787人の作業員のうち301人が一酸化炭素中毒で死亡している。

この炭鉱を保有する会社のアルプ・グルカンという男も、エルドアンの側近だった。彼の会社はAKP政権による「民営化」で事業を拡大し、建設業にも手を広げ、莫大な利益を手にしていた。

野党や鉱山労働者は以前から安全対策の不備を指摘していた。事故の20日前には議会で、鉱山への立ち入り調査を求める野党の動議が与党AKPによって否決されていた。

こうした人災はエルドアンとその仲間による安全軽視で頻発していた。いつでも政府の対応は遅く、不十分で、被害を一段と深刻にした。

21年にはトルコ南部で大規模な山火事が発生し、少なくとも9人が死亡、数千人が避難を余儀なくされた。こうした事態への備えが足りなかったこと、政府の対応が遅かったことは明らかで、エルドアンは激しい批判を浴びた。

野党や地域住民によれば、政府は環境への配慮を欠く開発業者に認可を与える一方、森林火災に備えた消火用の飛行機さえ用意していなかった。後に政府は、消防隊に飛行機はあったが一機も飛べない状態だったと認めている。

今回の地震でも、政府の対応は似たようなものだった。アンタキヤでは私の家族も、素手で瓦礫を取り除き、閉じ込められた身内の者を救出しようとした。国の救援隊は、地震発生から48時間後にようやく到着した。よその救助活動を優先しろと命令されたので、ここへ来るのは遅れた。彼らはそう言っていた。

腐敗した一部の利益優先

トルコ軍も現場で救助・支援活動を行えたはずだが、エルドアンは軍隊の災害出動をためらった。99年の地震では住民支援に重要な役割を果たした各種の市民団体も、既に解散させられていた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中