「アメリカは助けに来ない」──すでに中国の「認知戦」が効果を挙げる台湾の打つ手とは?
A DIFFERENT GAME
2023年1月、民間防衛の強化策についての記者会見での蔡英文総統 Ann Wang-REUTERS
<訪中した政治家、実業家、芸能人が台湾の大手メディアを買収し、中国共産党の宣伝機関に。事実や論理を心理戦に持ち込む中国の「認知戦」との闘い、そしてアメリカとの信頼の再構築>
ロシアのウクライナ侵攻で、東アジアの警報が作動した。もう1つの拡張主義的な超大国、中国の台湾に対する軍事的脅威が高まっている。
とはいえロシアの苦戦を目の前にして、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席はおじけづいているに違いない。
中国軍はロシア軍より資金豊富で、現代化が進んでいる印象だが、実戦経験は皆無で腐敗し切っている。さらに、アメリカとその同盟国はインド太平洋防衛の決意を強めており、台湾侵攻は勝ち目のない選択肢になりつつある。
しかし、中国は台湾に別種の攻撃を仕掛けている。世論の誘導を狙う認知戦だ。
この作戦は着実に成功している。昨年11月の台湾統一地方選で、親中派の国民党率いる青色陣営が、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が所属する与党・民進党に大勝したのがいい例だ。
確かに、台湾独立志向の民進党は地方選で国民党に負けるのが常だ。国民党はかつての一党独裁体制の下、地元レベルの既得権に基づく緊密なネットワークを築いた。ネットワークは民主化が進んだ1990年代以降もそのまま残り、年長世代の動員に効果を発揮する集票マシンと化している。
ただし、国民党は昨年の統一地方選で、より若い有権者の支持も集めた。兵役義務をめぐる論議を徹底的に利用したおかげだ。
中国が外国投資を呼び込もうと穏健化した90年代以降、台湾の兵役義務は段階的に縮小し、2013年には4カ月間に短縮された(18年に徴兵制から志願制に移行したが、4カ月の軍事訓練義務は残っている)。
16年の総統選で蔡が勝利すると、中国は直ちに軍事的脅迫を再開した。昨年8月には、ペロシ米下院議長(当時)の訪台に反発し、台湾周辺の海域に向けて弾道ミサイルを複数発射。対応を迫られた民進党政権は昨年12月下旬、防衛体制強化の一環として、兵役義務を1年間に延長する計画を発表した。
台湾で兵役延長には賛否両論がある。昨年の統一地方選のかなり前から、親中派は中国共産党に倣って「中国に攻撃されれば即座に負ける」「無責任なアメリカは台湾を助けに来ない」と喧伝。
アメリカはより多くの武器売却益を手にしようと意図的に中国を挑発しており、台湾の若者が勝てない戦争で使い捨てにされるとの反米論を展開した。