最新記事

中台関係

「アメリカは助けに来ない」──すでに中国の「認知戦」が効果を挙げる台湾の打つ手とは?

A DIFFERENT GAME

2023年2月21日(火)11時16分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)

この手法が功を奏したのは、中国が数十年前から下地をつくってきたおかげだ。国民党主席(当時)の連戦(リエン・チャン)が「融和」のため訪中したのは05年。

以来、主に国民党の政治家や台湾軍の元司令官、実業家、歌手、映画スターの訪中が相次ぎ、中国で富を得た人々が台湾の反共派の大手メディアを買収して、中国共産党の宣伝機関に変えた。

統一地方戦で勝利した青色陣営は、来年の総統選で民進党政権を倒す構えでいる。彼らが勝利すれば、中国は武力なしで勝利を収める。そうした事態を防ぐため、台湾の同盟相手にできることはあるのか。

注目すべきことに、台湾に対する中国の認知戦は偽情報に依拠していない。事実や論理を心理戦の兵器に包み込んで、信用を破壊しようとしている。アメリカは助けに来ないという主張の「根拠」は79年の米台断交だ。

冷戦下の当時、ソ連をにらんで中国と国交正常化したアメリカは、代償として台湾を切り捨てた。ならば、条件次第でアメリカは再び台湾を裏切るはずだ──。

この危険な主張を阻止すべく、アメリカは大胆な行動で、台湾防衛という約束への信頼を再構築する必要がある。

具体的には、79年以前のように台湾に米軍基地を構えて適切な人員・兵器を配備し、中国の神経を逆なでする言動のコストを自ら負担してはどうか。台湾が認知戦に屈しないよう手助けし、インド太平洋でのアメリカの国益を守るには、こうした道しかあり得ない。


230228p16NW_Yizheng_Lian.jpg練乙錚(リアン・イーゼン)
YIZHENG LIAN
香港生まれ。米ミネソタ大学経済学博士。香港科学技術大学などで教え、1998年香港特別行政区政府の政策顧問に就任するが、民主化運動の支持を理由に解雇。経済紙「信報」編集長を経て2010年から日本に住む。

20250204issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月4日号(1月28日発売)は「トランプ革命」特集。大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で、世界はこう変わる


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドバイ国際空港、2024年の利用者は過去最多の92

ワールド

民間機近くの軍用ヘリ飛行を疑問視、米上院議員 空中

ワールド

ロシアの穀物輸出、EUの船舶制裁が圧迫 中銀が報告

ビジネス

大阪製鉄が自社株TOBを実施、親会社の日本製鉄が応
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中