国家転覆を狙う「加速主義者」の標的は「電力インフラ」──未解決事件が相次ぐアメリカ
PROTECTING THE GRID
NERCは、電力会社によるルールの遵守状況をモニタリングし、執行する役割も担っている。「全米3000の電力会社に、業界団体が策定したルールを守らせるというのだから、(厳格な規制を確立するのは)非常に難しい」とウェリンホフは語る。アメリカの電力網の回復力を高める取り組みは、「強力とは言い難かった」と彼は言う。
NERCの広報担当者は、「北米市民のために明かりをともし続ける責務は重大であり、専門家でなければ務まらない」と本誌に語った。では最近、電力網が物理的にダメージを受ける脅威が高まっていることについては、どう考えているのか。
「物理的なセキュリティー事故は多岐にわたる。最も多いのは狩猟中の誤射、放火、銅の窃取だ」と、この広報担当者は答え、過激派のターゲットになる可能性への言及はなかった。FERCの広報担当者も、「アメリカの電力網のセキュリティーと信頼性は引き続きわれわれの最優先事項だ」と語るにとどまった。
現行の規制では、電力網がダウンしたとき、その長期化を防ぐ(と期待される)予備部品の確保を電力会社は義務付けられていない。NERCの広報担当者は、「われわれの基準は、電力系統に過大な負担をかけずに事業活動を継続できる態勢をつくることを事業者に義務付けている」と言うだけだった。
電力網の回復力がさほど高まっていないのは、政府や議会が十分な対策を講じてこなかったからだと批判する声もある。特に、13年のメトカーフの事件と、昨年末のムーア郡の変電所銃撃事件は、03年の北アメリカ大停電後の改革が不十分だった証拠だと、彼らは考えている。
電力網の安全確保は「超党派かつ常識的な国家安全保障問題」のはずだと、ウォーラーは言う。「残念ながら、そのための努力は共和党と民主党のどちらの政権も失敗してきた。最近の停電の『犯人』が誰であれ、アメリカの人々は電力網のセキュリティー強化を要求するべきだ」
問題は、そのセキュリティーをどう実行していくかだ。なかには、限定的な内容にとどまる現行の規制を大幅に超えるセキュリティー態勢を、自発的に構築してきた電力会社もある。これは主に、大規模自然災害の発生頻度が高まっていることを受けた措置だと、電力インフラセキュリティー(EIS)評議会のアビ・シュナーCEO兼議長は指摘する。
その一方で、法執行の専門家の間では、どんな計画であれ、全米の電力網を物理的に守るというアイデア自体が、果たして現実的なものなのか疑問視する声がある。
電力網は巨大であり、隅々まで見張ることは不可能だというのだ。「送電線のパトロールでもしろというのか?」と、かつて連邦政府のテロ対策合同タスクフォースにいたある人物は語る。