国家転覆を狙う「加速主義者」の標的は「電力インフラ」──未解決事件が相次ぐアメリカ
PROTECTING THE GRID
アメリカの致命的な欠点とは
電力会社は、電力網に障害が生じたとき他社との連携を強化する努力もしてきた。相互支援戦略に基づき、全米の技術者ネットワークを活用して復旧に当たろうというのだ。ただ、そこで想定されているのは、フロリダやテキサスやプエルトリコなどを定期的に襲う自然災害だ。
電力会社は、広域障害に対処するために新しいツールも活用している。例えば、電力網の重要部分がダウンして、外部電源なしで発電を再開しなければならない「ブラックスタート」に備えて、安全な通信システムや、さもなければ暗闇の中で作業しなければならない作業員に光を与える大容量バッテリー、そして人工知能(AI)を使った原因特定と意思決定支援システムを導入してきた。
とはいえ、いざというときに、これらの新技術がどのくらい役に立つかは分からない。停電が何週間にも及ぶ大災害のとき、「電力供給を再開するには、米本土がこれまでに経験した障害よりも、はるかに長い時間がかかるだろう」とシュナーは語る。
「最短でも数週間かかるかもしれない。テロで重要設備が大きなダメージを受けた場合はなおさらだ」
電力会社がどんなに最悪の事態に備えた予防策や対応策を強化しても、実際に電力網が大がかりな攻撃を受けたとき対処できるのか、専門家は懐疑的だ。脅威の大きさに対して、物理的セキュリティーを確保するための投資は「控えめ」だったと、レジリエント社会財団のトーマス・ポピク会長兼理事長は語る。
アメリカの州間高速道路には、「近隣住民への騒音対策のためだけに、何キロにもわたりコンクリートの遮音壁が設置されている。変電所の周囲にコンクリート壁を設置することに同じだけの資源が投じられれば、私たちもずっと安心できるだろう」と、ポピクは語る。
特に心配なのは、アメリカをはじめとする民主主義国は、災害が起きてからでないと動かない「致命的な傾向があることだ」と、ポピクは言う。
「大規模な攻撃が起きなければ、政策立案者や規制当局者の注意を喚起できないなら、アメリカに2度目のチャンスはないかもしれない」ポピクは悲痛な表情で言う。
「最初の本当に大きな攻撃が、最後の攻撃になるかもしれない。アメリカはそれでおしまいなのだから」