最新記事

スキャンダル

「妻と不倫した部下を射殺」疑惑の警察幹部に厳罰 インドネシア、警察の威信失墜と死刑判決

2023年2月14日(火)19時30分
大塚智彦

判決を聞いた被害者両親は涙

13日の判決公判の法廷には殺害されたフタバラット曹長の両親が故郷のスマトラ州ジャンビから駆け付けてワヒュー・イマン・サントサ裁判長の判決に聞き入った。

死刑が言い渡されるとサンボ被告は無表情のまま弁護団と言葉を交わした後に退廷し、最後まで罪を認めることはなく、殺害した部下に対する謝罪の言葉もなかった。

死刑判決に息子の写真を掲げたフタバラット曹長の両親は涙にくれた。かねてから両親はサンボ被告に極刑判決がでることを「正義の実現を望む」と強く要望していたのだ。

サントサ裁判長は判決の中で「サンボ被告の行動はインドネシア国民と国際社会の目に国家警察を汚し信用を失墜させる重大事件となった」と厳しく糾弾した。

サントサ裁判長は、サンボ被告が罪を認めず「妻への暴行を聞きついかっとなった」としながらも自ら銃撃して部下を殺害したことを否認し続ける態度に対し「我々裁判官をバカだと思っているのか、被告の証言は事前に準備した口裏合わせであることは明らかだ」と厳しい姿勢を示しており、検察の終身刑という求刑より重い判決が言い渡されるとの見方が有力だった。

また妻のプトリ被告には同日の裁判で求刑の禁固8年を大幅に上回る禁固20年を言い渡された。公判で嘘を重ねたことや被害者への贖罪の気持ちがなかったことが重い禁固刑に繋がったとみられている。

国家警察や軍の改革が焦点

インドネシアの国家警察や国軍はこのサンボ事件以外にも、パプア州での民間人4人を殺害のうえ遺体をバラバラにして重しをつけて川に遺棄した殺人・遺体遺棄事件など、さまざまな事件や犯罪への関与、汚職疑惑などの犯罪が最近次々と明らかになっており、ジョコ・ウィドド大統領にとっては頭の痛い問題となっている。

国民の警察官や兵士への信頼はこのところ著しく低下しており、威信の回復が政権にとって急務となっている。

だがジョコ・ウィドド内閣には元国家警察長官や軍高官の退役軍人などが要職を占めており、どこまでこれまで長年の「膿を出し切る」ことができるか、国民やマスコミの間でも疑問視する声は根強い。

2024年に大統領選を控えるインドネシアでは選挙運動キャンペーン期間中に熱狂的な支持者などによる騒乱や無秩序状態が起きるのがこれまでの定番とされ、鎮圧や事態取集に乗り出す警察官や兵士の過剰暴力への批判も根強い。このため警察官や兵士による権力を盾にした犯罪への厳しい対応が早急に求められており、それなくしては政情不安も十分に考えられる状況だ。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中