「妻と不倫した部下を射殺」疑惑の警察幹部に厳罰 インドネシア、警察の威信失墜と死刑判決
判決を聞いた被害者両親は涙
13日の判決公判の法廷には殺害されたフタバラット曹長の両親が故郷のスマトラ州ジャンビから駆け付けてワヒュー・イマン・サントサ裁判長の判決に聞き入った。
死刑が言い渡されるとサンボ被告は無表情のまま弁護団と言葉を交わした後に退廷し、最後まで罪を認めることはなく、殺害した部下に対する謝罪の言葉もなかった。
死刑判決に息子の写真を掲げたフタバラット曹長の両親は涙にくれた。かねてから両親はサンボ被告に極刑判決がでることを「正義の実現を望む」と強く要望していたのだ。
サントサ裁判長は判決の中で「サンボ被告の行動はインドネシア国民と国際社会の目に国家警察を汚し信用を失墜させる重大事件となった」と厳しく糾弾した。
サントサ裁判長は、サンボ被告が罪を認めず「妻への暴行を聞きついかっとなった」としながらも自ら銃撃して部下を殺害したことを否認し続ける態度に対し「我々裁判官をバカだと思っているのか、被告の証言は事前に準備した口裏合わせであることは明らかだ」と厳しい姿勢を示しており、検察の終身刑という求刑より重い判決が言い渡されるとの見方が有力だった。
また妻のプトリ被告には同日の裁判で求刑の禁固8年を大幅に上回る禁固20年を言い渡された。公判で嘘を重ねたことや被害者への贖罪の気持ちがなかったことが重い禁固刑に繋がったとみられている。
国家警察や軍の改革が焦点
インドネシアの国家警察や国軍はこのサンボ事件以外にも、パプア州での民間人4人を殺害のうえ遺体をバラバラにして重しをつけて川に遺棄した殺人・遺体遺棄事件など、さまざまな事件や犯罪への関与、汚職疑惑などの犯罪が最近次々と明らかになっており、ジョコ・ウィドド大統領にとっては頭の痛い問題となっている。
国民の警察官や兵士への信頼はこのところ著しく低下しており、威信の回復が政権にとって急務となっている。
だがジョコ・ウィドド内閣には元国家警察長官や軍高官の退役軍人などが要職を占めており、どこまでこれまで長年の「膿を出し切る」ことができるか、国民やマスコミの間でも疑問視する声は根強い。
2024年に大統領選を控えるインドネシアでは選挙運動キャンペーン期間中に熱狂的な支持者などによる騒乱や無秩序状態が起きるのがこれまでの定番とされ、鎮圧や事態取集に乗り出す警察官や兵士の過剰暴力への批判も根強い。このため警察官や兵士による権力を盾にした犯罪への厳しい対応が早急に求められており、それなくしては政情不安も十分に考えられる状況だ。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など