残酷な内戦と大地震に揺さぶられて...シリア援助に見る国際社会の重要な課題
Trapped by Assad
シリアの被災地への援助は、閉鎖された越境地点であるバブ・アル・サラムやアル・ヤルビヤを経由すれば可能だろう。過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで、アメリカと手を組むシリア民主軍は、米軍兵士約900人が駐留する北東部からの支援活動を促進すると約束している。
できることは数多くある。だが実現するには、本気でやらなければならない。国連の既存の越境援助体制の復活を待っていては、さらに多くの人命が失われるだけだ。
国連の支援活動は極めて複雑な取り決めで、大掛かりな事務手続きを伴う。リスク回避的であり、体制側の圧力の影響を受けやすい。そもそも、地震で自前の輸送体制がダメージを受けたなか、緊急援助を率いるには不向きだ。
選択肢は1つしかない。トルコの協力を得て、アメリカと同盟国が指揮を執る単独型の取り組みだ。
シリアでは、政府支配下の北部アレッポや中部ハマ、地中海岸地域でも緊急援助が必要になっている。最大級の対シリア人道援助国である欧米諸国は、首都ダマスカス経由の国連の支援活動に中心的役割を果たせるはずだ。イラクやアルジェリア、ロシア、アラブ首長国連邦(UAE)も追加緊急支援を提供している。
地震前、シリアの政府支配地域は悪化する経済崩壊の影響にあえいでいた。原因は、焦土作戦的な生き残り戦略を展開する現体制だ。2019年のレバノンの経済危機、新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻、同盟相手のイランの経済低迷も拍車をかけた。国内で高まる圧力や不満に直面していたアサド政権は、大地震で窮地に追い詰められている。
シリア政府は国際社会に支援を要請している。同国のバッサム・サバー国連大使は地震発生当日、あらゆる援助を歓迎すると記者会見で発言。ただし、いずれもダマスカス経由でなければならないと条件を付けた。反体制派支配地域への越境援助は事実上、認めないと示唆するものだ。
国際社会の重要な課題
越境援助によって全ての人に支援を届けるという長年の方針を、国際社会は捨ててはならない。ダマスカス経由の援助の一時的拡大は検討すべきだが、シリア北西部への援助が認められた場合に限る。
シリア政府はこの約10年間、人道援助を都合よく操り、流用・盗用し、無効化し続けてきた「負の実績」がある。不当な為替レートを国連に押し付け、援助金1ドルにつき半額を着服して巨額の稼ぎも手にしている。緊急事態の今であっても、こうした問題を増大させてはならない。