「偵察気球」飛来は中国の大失態、背景は謎だらけ
Why the Chinese Spy Balloon is a Huge Embarrassment for Beijing
サウスカロライナ沖で中国の気球を回収する米水兵(2月5日)U.S. Fleet Forces/U.S. Navy photo/REUTERS
<ブリンケン訪中は吹っ飛び、軍事機密を奪われ、習近平も今更非を認めることは政治的にできない。アメリカの専門家もなぜこんなことをしたのか首をひねるばかりだ>
米軍が撃墜した偵察気球をめぐって、中国外務省はここ数日防戦に追い込まれ、何とか面子を保とうとあたふたしている印象だ。
この一件には、中国ウォッチャーも首を傾げる。まず、なぜこの時期に気球を飛ばしたのか。どのレベルで決定が下されたかも謎だ。予想外の外交上のダメージに慌てふためき何とか事態の収拾を図ろうとしたのか、当初は遺憾の意を表明するなど融和姿勢を見せたものの、気球が撃墜されるや「被害者」に豹変し、アメリカに猛烈に抗議し始めたのは、どういう考えからか。
アントニー・ブリンケン米国務長官の訪中計画を諸手を挙げて歓迎してからわずか数週間後、気球の領空侵犯を理由にブリンケンが訪中延期を決めると、中国側は「延期も何も、そもそもこの訪中計画は正式な発表すら行われていなかった」とやり返した。
さらに気球撃墜のニュースが世界を駆け巡ると、中国政府は北京のアメリカ大使館に「厳正な抗議」を表明した。中国の次期駐米大使と目されている謝鋒(シエ・フォン)外務次官が大使館を訪れ、「中国の利益を損ない、緊張をエスカレートあるいは拡大させるような行為を慎むよう」強く申し入れたのだ。
「中国のやることは不可解」
ブリンケンの訪中は実現すれば実に5年ぶりの米外交トップによる訪中となるはずだった。それを間近に控えた時期になぜ中国は高さ60メートルの気球を飛ばしたのか。今もさまざまな憶測が飛び交っている。2月6日にホワイトハウスでの記者会見で、これについて聞かれたジョー・バイデン米大統領は「中国政府のやることだから」とだけ答え、米中対話の進展に支障をきたすような問題ではないと述べた。
アナリストのなかには、領空侵犯は意図的ではなくコースが外れただけという見方もある。米中会談成功のために躍起だったはずの中国指導部には、気球を飛ばす計画は報告されていなかったのかもしれない。いや、指導部は重々承知していたが、見つからないとタカを括っていたのではないか......。
中国のものとみられるもう1つの気球が中南米とカリブ海上空で確認されたことを米政府が発表すると、中国は自国の気球だとすんなり認めた。