最新記事

北欧

ウクライナ戦争で状況一変、ドイツさえ手玉に取る「再エネ先進国」ノルウェーの野心

A Renewable Energy Superpower

2023年2月8日(水)17時24分
ブレット・シンプソン

拡大する化石燃料採掘という皮肉

「困ったことだが」とラーンは言う。「今のノルウェーでは、化石燃料の輸出よりもクリーンエネルギーの輸出のほうが悪とされている。なんとも皮肉な話だ」

なぜか。クリーンな再エネは化石燃料並みの利益をもたらさないからだ。ノルウェーが昨年、化石燃料の輸出で稼いだ額は1210億ユーロ。対して再エネで稼いだのは10億ユーロ程度。この先、輸出が増えても2030年時点で80億ユーロ前後とされる。

ラーンによれば、将来的に化石燃料による収入が失われた場合、再エネの輸出でそれを補うのは「不可能に近い」。

ノルウェー国民は今も石油産業を支持しており、この皮肉な現実を受け入れている。そして現下の戦争によるエネルギー危機は、環境に優しい国を自称するノルウェーがせっせと化石燃料で稼ぐことを許している。

この戦争が始まる前まで、EUは北極圏で石油や天然ガスの採掘を続けるノルウェーを批判していた。だが今のEUは、まさにその資源に依存している。だからノルウェーも野心的に生産を拡大している。

昨年11月には石油会社エクイノールが、ノルウェー海の新しいガス田開発に14億4000万ドルを投じると発表した。今年に入ってからも、同国政府は北極圏で新たに92カ所での石油探査を認めている。昨年の3倍以上だ。

ノルウェーが化石燃料に執着するせいで、ほかのEU諸国との再エネ連携協定の交渉は進まない。昨年2月、ノルウェーとEUは産業界のための「グリーン・アライアンス」の検討を開始したが、いまだに合意に至っていない。

昨年11月には国連の気候サミットで合意を発表する段取りだったが、間に合わなかった。交渉の舞台裏をリークした地元紙によれば、2030年以降も石油と天然ガスの採掘を続けたいというノルウェー側の意向を、欧州委員会は断固として拒否していた。

ノルウェーの経験に学ぶ

ノルウェーのアンドレアス・ビェラン・エリクセン石油・エネルギー副大臣は、EUの「心変わり」は残念だと述べた。

ウクライナ戦争でエネルギー不安が高まっていた昨年6月には、欧州委員会のバルディス・ドンブロフスキス副委員長がノルウェーとの共同声明に署名していたからだ。

そこには、北極圏のノルウェー領に眠る石油資源は欧州全体にとって貴重であり、ノルウェーは「継続的な探査・発見・開発を通じて、2030年以降も長期にわたり欧州への主要供給国であり続ける」と明記されていた。

「世界は30年以降も、まだ天然ガスを必要としているはずだ」とエリクセンは言う。「化石燃料から再エネへの完全な転換には時間がかかる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中