中国「スパイ気球」騒動と「U2撃墜事件」の奇妙な類似
モンタナ州の上空で確認された中国の偵察気球(2月1日) CHASE DOAKーREUTERS
<既に悪化していた米中両超大国の関係はまた少し冷え込んだ>
ブリンケン米国務長官は2月3日、予定していた中国訪問の延期を決めた。モンタナ州の核兵器施設に近い上空で、バス3台分の大きさの機器を積んだ中国の偵察気球が確認されたことを受けた措置だ。
宇宙空間から詳細なデータを収集できるスパイ衛星に比べれば、高高度に浮かぶ気球は大したことがないように見えるかもしれない。だが、気球には利点もある。製造コストが安価で、何カ月も飛べる。予測可能な軌道を移動する人工衛星と違い、上空を「ぶらつく」こともできる。そして撃墜するのは意外と難しい。
かつては行き先は風任せという明白な欠点があった。だが、今は気流を利用して気球を一定方向に誘導できる。
それにしても、中国が重要な外交日程直前にこうした挑発に出るのは奇妙だ。特に今の中国はパンデミック後の対米関係修復に力を入れている。
中国がアメリカの核施設偵察に強い関心を持っているのは確かだ。米政府も中国の核戦力増強を注意深く監視している。アメリカには機密性の高い軍事施設が多数あり、軌道をそれた気球が接近する可能性は十分ある。
今回の騒動は、中国の軍や安全保障部門の内部にいる反米派による意図的な挑発だった可能性もある。しかし、実際には単純ミスの可能性のほうが高い。そもそも気球をアメリカの領空に送り込む意図はなかったのかもしれない。
中国がこの偵察システムをしばらく前から使っていて、アメリカはそれを知りながら外交的判断に基づき対応しなかった可能性は極めて高い。この種の侵入は以前にもあったと、国防総省の報道官は記者会見で認めている。
今回の騒動は気球が民間人に探知可能な低空を飛行していたため、米当局も動かざるを得なかったというのが実情のようだ。
中国当局はこの気球について、偏西風の影響でコースを外れた気象観測気球だと主張。米領空への「意図しない進入を遺憾に思う」と発表した。中国側が公式に非を認めることは難しいので、この立場を変える可能性は極めて低いが、密室で何らかの報告や謝罪があるかもしれない。
だが中国から見れば、アメリカの対応は偽善的に映るだろう。アメリカと同盟国は数十年前からさまざまな監視技術を使い、中国領土を詳細に観察してきた。国防総省は少なくとも2020年から「スパイ気球」を運用している。