日本の製造業は高齢者と外国人が主力、人口減少で革新的ヒットが生まれづらくなるこれだけの理由
THE FORECAST FOR SHRINKING JAPAN
一方で、新規学卒者は増加傾向にある。全新規学卒者における製造業への入職割合もこの数年は12%前後を維持している。にもかかわらず、34歳以下の就業者の割合が減っているのはこの年代で退職する人が多いためだ。
結果として、中途採用がメインとなっている企業が増えている。独立行政法人労働政策研究・研修機構の「ものづくり産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応した人材の確保・育成や働き方に関する調査結果」(調査時期は2020年12月)によれば、2017~2019年度に中途採用を「募集しなかった」企業は13.4%にとどまり、「中途採用が中心」という方針の企業は52.6%と半数を超えている。
とはいえ、新規学卒者や中途採用者で定年退職や離職者の穴を埋めるだけの人数を確保し切れていない状況に変わりはない。このまま、海外に製造拠点を移転させた企業の国内回帰の動きが大きくなれば人材確保はさらに厳しさを増すことになる。
若い就業者が計画どおり採用できず、定着もしないとなると、必然的にベテラン勢に頼らざるを得なくなる。製造業の65歳以上の就業は2012年頃から2017年まで上昇カーブを描いた。「2022年版ものづくり白書」によれば、2002年は58万人だったが2021年は91万人にまで増えた。これは製造業全体の就業者の8.7%に当たる。日本の製造現場の1割近くは高齢社員によって支えられているのだ。
他方、厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」(2021年10月末現在)によれば、外国人を雇用している製造業の事業所は2017年の4万3293カ所から年々増え2021年は5万2363カ所になっている。新型コロナウイルス感染症に伴う入国制限で2020年以降は微減となっているが、コロナ禍前は急増していた。2017年(38万5997人)と2019年(48万3278人)を比較しても9万7000人以上増えている。今や日本の製造業は高齢者や外国人が主戦力なのである。とはいえ、高齢者もいずれは減る。外国人労働者もいつまで来日するか分からない。
こうした人材確保もさることながら、それ以上に人口減少が深刻な影響を及ぼすのは技術の承継を困難にすることだ。小規模や零細企業ではベテラン社員の熟練の技に頼っているところが少なくなく、そうした技は一朝一夕に身に付くものではない。就業者の世代交代がうまく機能しなければ、熟練の技は消えることとなる。そうなれば企業としての「強み」も消え、経営が行き詰まることにもなりかねない。
熟練の技の消滅は大企業の生産や開発にも波及する。日本の製造業は、幾層もの下請け企業によって成り立っているためだ。下請け企業が熟練の技を失ってしまった場合、代わりは即座には見つからない。
人口減少の影響は製造の現場だけでなく、製品企画開発部門にも及ぶ。製造業の製品企画開発に携わる専門家や技術開発者の中高年齢化は、新しいアイデアを着想する力や社会の新しいニーズを取り込む力を弱め、新技術や新商品を開発する力の衰退を招く方向へと作用しやすくなるからだ。開発の最前線が中高年社員中心でマンネリズムの支配を許す組織文化では、若い開発者が躍動する外国企業に太刀打ちできない。このままでは、ますます革新的なヒット商品が日本から誕生しづらくなる。
『未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること』
河合雅司[著]
講談社現代新書
(2022年12月)
累計100万部を突破する『未来の年表』シリーズの最新刊。昨年12月の発売以降、全国各地の書店で新書ランキング1位を獲得。今回の特集記事は同書収録の第1部「人口減少日本のリアル」で扱う16業界より5つを抜粋・再構成しており、同書の第2部では、瀬戸際の日本企業に対する具体的な処方箋を「戦略的に縮むための『未来のトリセツ』(10のステップ)」として提示している。
河合雅司(作家・ジャーナリスト)1963年生まれ。中央大学卒業後、産経新聞社入社。同社論説委員などを経て人口減少対策総合研究所理事長。主な著書に『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』『未来のドリル』(いずれも講談社現代新書)がある。
2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」
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