本を読まないヘンリー王子の回顧録は「文学作品としては最高峰」──ゴーストライターの手腕とは?
Prince Harry’s Book Is Just Good Literature
匠の技が光るのはもっと細かな部分だ。立場上、謝罪せざるを得ないようなばかげた行動(仮装パーティーでナチスの扮装をするとか)を描く際には、子供時代に友達と畑に忍び込んでイチゴを盗み食いしたといった、いたずらっ子のエピソードを組み合わせる。映画『ロード・オブ・ザ・リング』のいたずらなホビットたちを彷彿させるような場面を入れるのだ。
モーリンガーは使命を果たしたと言えるだろう。彼の描くヘンリー王子は人好きのする、けっこう単純な男だ。離婚歴のあるアメリカ人女性と結婚するために退位したエドワード8世は、今でもあの世のどこかで自分の決断について考えているのだろうか、なんて思いにふけることもある。
そして王子と言えば戦う相手のドラゴンが付き物だ。ヘンリーの場合、それはメディア、特にタブロイド紙に雇われたパパラッチたちだった。
他の生き方について学ぶ機会がなかったヘンリーには、同情の念も湧く。マッチョな勇敢さや昔風の男らしさを備えた彼は、中世の王子としてならうまく生きられただろう。
だが現代の王族は、結婚しようがしまいがブリジット・ジョーンズ的だ。ブリジットと同じでメディアの中で働いている。王族は持って生まれた名声を、価値ある大義に対する「世間の意識を向上させる」ために使う広報担当者だ。メディアなくしては成り立たない仕事だが、そのメディアに彼らは苦しめられてもいる。