最新記事

英王室

本を読まないヘンリー王子の回顧録は「文学作品としては最高峰」──ゴーストライターの手腕とは?

Prince Harry’s Book Is Just Good Literature

2023年1月31日(火)11時34分
ローラ・ミラー(コラムニスト)

軍隊生活も基礎訓練で体をいじめることも、攻撃ヘリのアパッチを操縦することも大好きで、アフガニスタンでの2度にわたる軍務にもプラスの感情を抱いている。南極および北極の探検隊に加わり、北極に行った際には大事なところに軽い凍傷を負った......なんて話まで出てくる。

小説であれ回顧録であれ、本の書き手や読み手にヘンリーのようなタイプの人はあまりいない。書き手がこの手のタイプの人物を強く意識することも少ない。

自身について深く掘り下げて考えたことのない人の内面を、どうやって言葉にするのだろう。同じくモーリンガーの協力で回顧録を出したナイキの創業者、フィル・ナイトはニューヨーク・タイムズ紙の取材にこう答えている。

「(モーリンガーは)精神分析医みたいだった。彼の前では、自分がそんなことを言うとは思ってもみなかったようなことが口を突いて出てくる」

場面場面のリアルな肌触りを再現するために、モーリンガーがどれほどヘンリーに対し、感覚的な細かい部分まで思い出させようとしたことか。読みながら繰り返し繰り返し考えずにはいられなかった。

例えばバルモラル城のベッドリネンの描写はこうだ。

「寝具は清潔でぱりっとしていて、さまざまな色合いの白だった。真っ白いシーツ。クリーム色がかった毛布。淡いベージュがかったキルト。......全てがスネアドラムのようにピンと張られ、しわ1つないせいで、100年分の穴や裂け目をかがったところが目についた」

細かい描写を通してシーツの滑らかな手触りだけでなく、家事仕事に一切の手抜きがないことや、上流階級らしい節約ぶりといったものまで伝わってくる。書き手の文芸作品的な技が光る部分だ。

「広報マン」のジレンマ

ヘンリーのような、気質も好みも作家タイプとは対極的な(下手をすれば学校でそういうタイプの子供をいじめていたかもしれない)男性と言えば、本の中では敵役として登場するのが普通だ。

だがモーリンガーは、この異色の主人公を読み手が好感を持つように描かなければならなかった。母の死の悲しみや、跡取りである兄の「スペア(予備)」としての役割を押し付けられたことへの苦悩を中心にヘンリーの人柄を描いたのは安直と言えば安直だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、赤沢氏を重要物資安定確保担当相に任命 対

ワールド

スペイン、米軍機の領空通過を拒否 対イラン攻撃で

ワールド

英住宅ローン承認件数、2月は3カ月ぶり高水準 今後

ビジネス

イスラエルの26年経済成長率、戦争長期化なら3.3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカートニー」を再評価する傑作映画『マン・オン・ザ・ラン』
  • 4
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 5
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 6
    【銘柄】東京電力にNTT、JT...物価高とイラン情勢に…
  • 7
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 8
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中