最新記事

トルコ

怒れるエルドアン、その真の標的は──根幹にある「アメリカ不信」

Turkey’s Real Problem

2023年1月31日(火)12時20分
ハリル・カラベリ(中央アジア・コーカサス研究所上級研究員)

圧力も懐柔も効果なし?

米バイデン政権は、トルコが空軍維持のために欲しがっているF16戦闘機を売却することで、トルコを軟化させようと考えている節がある。しかしF16の売却には米議会の一部が猛反対しているだけでなく、実現したところでアメリカとトルコの関係が崩壊を免れる程度の効果しか期待できないだろう。F16の購入が許されたとしても、トルコがかつてロシア製のS400地対空ミサイルシステムを購入したことを理由に、次世代型戦闘機F35の共同開発計画から締め出されたことの埋め合わせにはならないからだ。

バイデン政権は5月に実施されるトルコ大統領選の後に、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟に向けてトルコに圧力をかけるか、あるいは懐柔できると考えているかもしれない。

その背景にあるのはおそらく、エルドアンが再選を果たせば選挙のために国内でアメリカに対する強硬姿勢を維持する必要がなくなるから、こちらの言うことを聞くだろうという期待。あるいはエルドアンが敗れた場合、新大統領が関係改善のためにアメリカの言いなりになるという期待だろう。

だが、この考え方はあまりに楽観的だ。安全保障上の最大の脅威であるPKKとその関連組織を無力化させようというトルコの決意を、過小評価してはならない。現在のトルコの姿勢が、長期的な戦略的利益(選挙とは関係のない超党派の見方だ)を反映していることを認めないのも誤りだ。大統領選の結果によってトルコが考えを変えることはないだろう。

トルコは今後も、スウェーデンが自分たちの懸念に対処しない限り、そしてスウェーデン国内のクルド人寄りの左派や反イスラムの右派活動家がトルコに対して言い訳の種を提供し続ける限り、スウェーデンのNATO加盟を拒否し続けるだろう。

スウェーデンがNATOに加盟するには、アメリカがシリアのクルド人民兵組織に資金や武器の提供をやめる必要がある。

米政府はやがて決断せざるを得ない。PKKとつながりのあるシリアのクルド人自治区の存続と、スウェーデンを加盟国に加えてNATOを強化するのと、どちらをより重視するかだ。NATOの団結と強さを危険にさらしている原因は、アメリカがトルコの正当な安全保障上の利益のために動くのを拒否していることだと、バイデン政権は認めるべきだ。

一方のトルコ政府も、アメリカが戦略上の脅威に直面していることを認識し、その対処を手助けする覚悟を決める必要がある。米政府がPYDとYPGへの支持を考え直すためには、トルコがアメリカと協力してイランの脅威に対抗する意思を表明すべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中