ウクライナで進む「対ロ協力者」摘発──1年で数千人が拘束、深く根付くロシアの影響
UKRAINE
ハルキウ(ハリコフ)で協力者とみられる男を拘束するSBU要員 RICARDO MORAESーREUTERS
<ロシアの工作員はあらゆる場所にいる>
ロシアのウクライナ侵攻は、当初からウクライナ側の情報提供者、裏切り者、対ロ協力者に支えられてきた。彼らは攻撃目標の位置特定に協力し、ウクライナ政府内部に潜入した。この1年間で少なくとも数千人が拘束され、数百件の裁判が進行中だ。
「ロシアの工作員はあらゆる場所にいる。議員や裁判官、聖職者、もちろん一般市民の中にも紛れ込んでいる」と、首都キーウ(キエフ)に拠点を置く非営利団体チェスノのイリーナ・フェドリフは言う。同団体は侵攻開始後、協力者1000人以上の正体を暴露してきた。そのうち47%は政治家で27%が裁判官だ。「警察、裁判所、政府。全てに協力者が入り込んでいる。多くは拘束されたが、裁判になるケースは少ない」
1922年から91年まで、ウクライナは70年近くソ連の一部だった。多くの地域でロシアの影響が深く根付いている。ロシア政府に言わせれば、今もウクライナは歴史的にロシアの一部だ。
東部の住民は伝統的にロシア語話者だった(今では多くがウクライナ語に切り替えた)。ロシア政府の宣伝を流すテレビ局も多くの地域で視聴可能だ。ゼレンスキー大統領のコメディアン時代の人気テレビ番組『国民の僕しもべ』でも、登場人物の大半がロシア語を話していた。
しかし、親ロ政権を崩壊させた2013~14年のマイダン革命以降、ウクライナ東部とロシアの歴史的結び付きを再検討する動きが加速した。それを決定付けたのが昨年2月の侵攻だ。ウクライナでは近年、10以上の親ロシア派政党が活動を禁止された。
「モグラや裏切り者の一掃」が必要だと、ウクライナ保安庁(SBU)のアルテム・デクティアレンコ報道官は取り締まりの重要性を強調する。
SBUは昨年2月以降、約2500件の犯罪捜査を進め、600人の工作員やスパイを拘束。4500件以上の政府機関に対する工作やサイバー攻撃を阻止した。ドネツク州の重要インフラ施設の情報をロシア側に提供し、ウクライナのロケット発射台の位置を特定しようとした人物は先日、禁錮12年半の判決を受けた。
キーウでは、ウクライナ商工会議所の理事長と内閣官房の部門長が拘束された。両者はウクライナの防衛能力に関する情報と警察官の個人データをロシアに流していた。
ウクライナでは一般市民の多くが、ロシアのプロパガンダをSNSで発信していた隣人やスパイ容疑で告発された同僚など、対ロ協力者の存在を身近で感じた経験がある。