ロシアと異なる中国の戦術、日本の「防衛費1.5倍」では不十分だ
JAPAN’S MILITARY AWAKENING
1発のミサイルも発射しないから、そのアクションが国際社会にもたらすコストは最小限にとどまる。だから中国は、欧米諸国から大きな制裁を受けることなく、香港の自治権を骨抜きにすることにも成功してきた。
習はその成功に勢いづき、東シナ海でも同じ戦術を取ろうとしている。
例えば日本の尖閣諸島について、中国は領空・領海侵犯をエスカレートさせている。これに対して日本政府は、自制的な対応に終始してきた。中国を刺激してはいけないからと、歴代防衛相は尖閣諸島を空から視察することさえ控えてきた。
今後トマホークや極超音速ミサイルを手に入れるからといって、日本が中国のハイブリッド戦争にうまく対抗できるとは限らない。
ひそかに、少しずつ、実効支配という既成事実をつくる中国の戦術をくじくためには、ミサイルを獲得・配備する以外にも有効な対抗策を見つける必要がある。
日本が防衛力を大幅に強化しようと動き出したのは歓迎すべきことだ。だが、最新の国家安全保障戦略がうたうように、周辺有事や現状変更の脅威を「排除する」には、日本の得意分野で中国を打ちのめす措置をもっと積極的に講じる必要がある。
ブラマ・チェラニ
BRAHMA CHELLANEY
インドにおける戦略研究・分析の第一人者。インド政策研究センター教授、ロバート・ボッシュ・アカデミー(ドイツ)研究員。『アジアン・ジャガーノート』『水と平和と戦争』など著書多数。