最新記事

ベラルーシ

プーチンの「使い勝手のいい駒」──支持してもロシアのために戦いたくないベラルーシ

Inching Toward Invading

2023年1月5日(木)12時01分
ノーマ・コステロ(ジャーナリスト)、ベラ・ミロノバ(ハーバード大学客員研究員)
合同軍事演習

ウクライナ侵攻前に両国が実施した合同軍事演習 RUSSIAN DEFENSE MINISTRY PRESS SERVICEーAP/AFLO

<ベラルーシがウクライナ侵攻の新たな拠点になる可能性が衛星画像で確認されているが、ルカシェンコは派兵に消極的という見方も。「欧州最後の独裁者」の本音は?>

森林地帯に出現した道路、ウクライナ北部と接する国境付近に向けてゆっくりと輸送される軍事装備品──ベラルーシ領内を捉えた最近の衛星画像では、そんな様子が確認できる。多くの専門家に言わせれば、ベラルーシがロシアのウクライナ侵攻の新たな拠点になる可能性を示す兆候だ。

新年早々にも、今度は北の方角から攻撃されるのではないか。国境付近への軍需品の到着は、先頃ベラルーシ軍が実施した「対テロ」演習や戦闘態勢強化などを目的とする臨時検査と併せて、ウクライナ政府の懸念を呼んでいる。

欧州最後の独裁国家と称されるベラルーシはこれまで、ウクライナ侵攻とは軍事的におおむね距離を置いてきた。だが、それも近々変化しそうな兆しが大きくなっている。

ベラルーシでは対ロシア国境から、ポーランドとの国境に近い南西部の都市ブレストへ兵士・軍需品を輸送する列車の運行頻度が増加。ロシアのインタファックス通信によれば、駐留ロシア軍の戦術演習も予定されている。

ウクライナへの軍の展開は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領にとって危険な賭けになるだろう。ベラルーシ軍特殊作戦部隊の元中佐で、欧州の他の国に亡命したアルツョーム(匿名希望)は筆者らにそう語った。

「ルカシェンコはウクライナ派兵の回避に全力を尽くしている。権力を握っていられるのは、軍や治安当局の(支持の)おかげだと自分でも分かっている。彼らがウクライナで死傷したら、身の破滅につながりかねない。ポーランドがベラルーシ攻撃を計画中だから、国境沿いに軍隊を配置する必要があると主張しているが、ルカシェンコは(ロシアのウラジーミル・)プーチン(大統領)の言いなりだ」

ルカシェンコはウクライナ派兵に消極的だとの見方に同意する声は圧倒的に多い。6選を決めた2020年大統領選後の反政府デモとその弾圧を受けて、国内情勢が不安定化しているためだ。

「複数の調査が示すように、軍のウクライナ派遣には大部分の人が反対している。正当化するのは政治的に難しい」と、ベラルーシ出身の独立系ジャーナリスト、ハンナ・リウバコワは指摘する。

「ベラルーシ軍を構成するのは、社会的地位が低く、戦う動機を持たない徴集兵の若年男性だ。彼らが死体で戻ってくることになれば、抗議デモに火が付く可能性がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 5
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 6
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 7
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 8
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 9
    「スニーカー時代」にハイヒールを擁護するのは「オ…
  • 10
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 8
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 9
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 10
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中