最新記事

アジア

アジアを「野心」からどう守るか?──2つのカギはインドの「クセ」と日韓関係

2022年12月28日(水)12時06分
小池百合子(東京都知事)
国旗

ILLUSTRATION FROM PROJECT SYNDICATE YEAR AHEAD 2023 MAGAZINE

<地政学的な「真空」を狙う、大国と大国になりたい国々。故・安倍首相が残した安全保障の枠組みと日本が取るべき外交政策とは?>

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにインド太平洋地域の人々は、この地域において目に見える形で、あるいは水面下で悪化しつつある問題が戦争につながる可能性はあるのか自問するようになった。

2022年8月の米民主党のナンシー・ペロシ下院議長による台湾訪問への中国の激しい反応を見れば、答えは明確に思える。インド太平洋地域はヒンズークシ山脈から南シナ海、38度線まで警告抜きで武力紛争が始まってもおかしくないような、根深い歴史的反目と国境をめぐる独善的主張に満ちているのだ。

この地域の指導者たちは、国家の野望や互いの敵意が戦争へとエスカレートするのを防ぐ平和のシステムをつくることは可能か、という問いを突き付けられている。平和を乱そうとする者を思いとどまらせるには戦略的な信頼関係が必要だが、それを築き上げることができるかどうかは主に、この地域の民主主義諸国に懸かっている。

だが、この目標の達成は22年、安倍晋三元首相の射殺という大きな悲劇によって遠のいた。アジアと不可分のダイナミズムを平和的な方向に向かわせるための指針や枠組みを提供するにはどんなタイプの同盟や条約、制度的構造が必要か、安倍元首相はずっと考えていた。

アジアは欧州諸国のように多国間組織や同盟で強く結ばれてはいないこと、そうした結び付きこそが平和と繁栄を維持する基盤となることを、彼は認識していた。

そこで安倍元首相は、インド太平洋地域全体の平和の礎となるべき2つの枠組みの旗振り役を務めた。1つはクアッド(日米豪印戦略対話)、そしてもう1つは環太平洋11カ国が加盟する包括的・先進的TPP協定(CPTPP)だ。

インド太平洋地域全体のための「交通ルール」の構築につながる2つの枠組みを彼はつくったことになる。クアッドは4カ国間の関係強化により、またそれぞれの国が他の国との戦略パートナーシップ(アメリカと韓国、インドとベトナムなど)を強化することにより、安全保障の分野で地域をリードしている。

またCPTPPについては、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を通した中国のアジアにおける経済覇権の確立を阻止できるという理解で、安倍元首相と加盟国の指導者らは一致していた。設立から4年、CPTPPは加盟各国の指導者たちが足並みをそろえて協力し合うさまざまな機会を提供している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ショルツ独首相、2期目出馬へ ピストリウス国防相が

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中