最新記事

アジア

アジアを「野心」からどう守るか?──2つのカギはインドの「クセ」と日韓関係

2022年12月28日(水)12時06分
小池百合子(東京都知事)

私たちはこうした協力をさらに進めなければならない。第2次大戦後に持続的な平和・安全保障システムを構築した際に得られた重要な教訓は、参加国間の連帯が非常に重要だということだ。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が少なくとも今のところ、侵攻をウクライナ領内にとどめているのも、NATOの岩のように固い連帯のおかげだ。

経済分野のほうが連帯を築くのが容易であることは言うまでもない。アメリカが不参加だったにもかかわらず、CPTPPが各国にスムーズに受け入れられ、形になったことを驚く人はほとんどいないだろう。

対照的に、クアッドにおいては本物の連帯感が欠けている。それはウクライナ侵攻に対するインドの不確実な対応に表れている。

インドは長らく、非同盟の立場と2国間での外交努力により国の安全を守れると考えてきた。度重なる中国軍の侵入や、安倍元首相とナレンドラ・モディ首相との強い絆もあって、一匹狼のやり方がもう通用しないことは分かっているはずだが、昔からの「クセ」を断ち切るのは難しい。

真空に付け込みたがる「大国」

またインドは以前から、軍事装備品や訓練をロシア・ソ連に大きく依存してきた。この依存関係は長い間、インドにとっては理にかなったものだったが、時代は変わった。ロシアへの依存は今やインドを歴史の誤った側へと引きずり込みつつあり、中国との関係においてもインドの弱みとなっている。

クアッドがアジアを代表する安全保障機構になり、ロシアが中国の属国化しつつあるなか、クアッドとロシアの双方と同じ距離を保つことの政策的意味が薄れていることをインドは認識するだろう。

中印国境で紛争が起きた場合、中国から圧力を受けたロシアが武器やエネルギーといった重要な物資の対インド輸出を差し止める可能性もある。許容し難いリスクを自ら進んで背負うべきではない。

中国がインド北部の広い地域の主権を主張するなか、現在の国境線の尊重をインドが求めるならば、ウクライナを含むあらゆる地域における領土の一体性の原則を強く主張する以外に方法はない。

もし安倍元首相が存命なら、問題の本質を理解し、クアッドのパートナー諸国を受け入れるよう、モディ首相を裏で説得したはずだと私は信じている。

昔からの「クセ」で、朝鮮半島の安全保障も危険にさらされている。太平洋戦争が終わって80年近く、歴史認識をめぐる議論は日韓の効果的な安全保障協力を阻んできた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB利下げ支持、今後2会合で─蘭中銀総裁=ブルー

ワールド

焦点:トランプ米政権、結束した敵対勢力に直面 外交

ビジネス

モルガンSのトップバンカー賞与、アジアで最大50%

ビジネス

日経平均は3日続伸、ハイテク株が指数けん引 取引一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 8
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    米アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが大型ロケット打ち…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中