「あなただけではない...」不安症、親の育て方が大きく関係──治療の最前線
THE ANXIETY EPIDEMIC
フォックスと米国立精神衛生研究所(NIMH)のダニエル・パインが共著論文で述べているように、繊細で怖がりの子供は「未知のものを過剰に恐れ、なじみのないものに過敏に反応する」あまり、自分の行動を抑制しがちだ。こうした子供は「同年代の子供と比べ自己主張が弱く、友達ができにくい」ため、自己肯定感が低くなる傾向があるという。
もっともパインによれば、幼児期に行動抑制が見られても大人になってから不安症になるとは限らない。行動抑制のある子供も約50%の確率で発症を免れることが分かっている。とはいえ子供全体では成長後に不安症になる確率は10%だから、行動抑制があればその5倍も発症リスクが高いということだ。
それでも物おじしがちな性質も、うまく導けば素晴らしい資質になると、フォックスは言う。「内気で用心深いことはちっとも悪いことじゃない。誰もがエネルギッシュで外向的である必要はない。私は研究対象の子供たちの成長ぶりを見守ってきたが、引っ込み思案だった子もちゃんと活躍の場を見つけている。例えば作家、シェフ、コンピューター科学者、音楽家といった職業だ」
生まれつき内気だったり外向的だったりするのは人間だけではない。気質の違いはほぼ全ての動物にある。今年6月に発表された論文によれば、ラットでさえ例外ではない。ペットを飼っている人なら誰でも知っているように犬や猫も同じ。生まれつき恐怖心が強い犬種や猫種がある。「私が飼っている犬は代々ラブラドール・レトリバーだ」と、フォックスは言う。「妹の愛犬はコッカー・スパニエルで、目新しくなじみのないものに出合うと大騒ぎし、極度に警戒する。私の犬とは大違いだ」
当然ながら、そうした気質の違いは部分的には遺伝子によるものだ。シルバーマンは6月に同僚と共に発表した論文で、子供の不安症の発症確率を2倍近く高める珍しい遺伝子の変異型について報告した。10月に発表された別の論文によると、司法試験を受ける学生の受験勉強のストレスに対する反応も遺伝子と関係があるようだ。
冒頭に紹介したランデロスにとっては、こうした研究結果は意外ではない。「夫も私も内気なタイプ」と、彼女は打ち明ける。「私はまだ人付き合いをしようと努力しているけれど、娘は完全に夫タイプ。彼のクローンかと思うほど性格はそっくり」
ウィスコンシン大学医学・公衆衛生学大学院の精神医学科の学科長で、米精神医学会誌の編集長でもあるネッド・ケーリンはストレスと不安の遺伝学・神経生物学的研究に何十年も取り組んできた。その驚くべき成果の1つは、長年恐怖をつかさどると考えられてきた脳の領域・扁桃体は遺伝学的に見て不安と関係がないと分かったことだ。