「国連が難民たちを実験動物に」 シリア難民キャンプの生体認証決済に倫理面で疑問の声
これに対して国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の広報担当者は、難民から個人データ収集の同意を得る際に、その目的を説明していると主張。「UNHCRは身体データを他のどのような組織とも共有はしていない」と明言した上で、もし難民が虹彩認証システムを使わないと決めても同じレベルの支援を受けられると付け加えた。
保護法制の欠如
戦争や貧困、迫害から逃れる人が増え、世界中で自然災害も記録的な規模で発生している中で、各国は入国者の動きを追う上でデジタル技術を駆使するようになってきた。
ただ各国や支援機関などがこれらの技術は効率性を高め、無駄な資源投入を減らすと強調する一方で、立場の弱い難民などは監視対象になったり、個人データを商業利用されたりするとの批判がある。
デジタル人権団体アクセス・ナウの中東・北アフリカ政策マネジャー、マルワ・ファタフタ氏は「これらのデータが悪意を持つ者たちの手に渡ったらどうなるか」と述べ、強力な個人情報保護法制が整備されていない国にいる難民は、法的な守りという面も乏しいと警鐘を鳴らした。
ファタフタ氏は「個人識別のために身体データを集めるという行為は、相当侵害的な認証方法だ。必要不可欠でも相応な措置でもなく、国連が本来従うべきプライバシー保護の国際基準に違反している」と訴えた。
UNHCRは既に、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプで個人データを収集した問題で批判に直面。人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは昨年のリポートで、データの及ぼす影響に関してUNHCRが全面的な調査をしなかったばかりか、幾つかのケースでは難民データをミャンマー政府と共有することに同意を得ていなかったと指摘した。ミャンマー政府はロヒンギャを迫害した当事者だ。
歓迎の声も
国連から委託され、アズラクのシリア難民キャンプで虹彩認証決済システムを実際に運営しているアイリスガードのディレクター、サイモン・リード氏は、同社としてはいかなる難民データも保存していないと説明。暗号化機能が内部にあり、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)も順守していると話す。
シリア難民の1人、モハマド・ジャバーさんは、自分の身体データに誰がアクセスしたかは気にならないし、USHCRを信頼していると述べた。
この決済システム導入まで、ジャバーさんはデビットカードのようなIDカードを使わざるを得ず、すぐどこか違う場所に置き忘れたり、暗証番号を忘れてしまったりする面倒な問題があったが、「以前よりずっと状況は良くなった」という。
(Nazih Osseiran記者)