「国連が難民たちを実験動物に」 シリア難民キャンプの生体認証決済に倫理面で疑問の声
ヨルダン東部アズラクのシリア難民キャンプでは、2児の母であるサミール・サボーさんが食料品の代金を払うため、懸命に目を見開いていた。国連が手がける虹彩認証の決済システムを利用するためだ。写真はこのシステムを使う女性のイラストレーション(2022年 トムソン・ロイター財団/Nura Ali)
ヨルダン東部アズラクに設けられたシリア難民キャンプでは、2児の母であるサミール・サボーさんが食料品の買い物代金を支払う際に、懸命に目を見開いていた。国連が手がける虹彩認証(瞳孔の周囲の虹彩パターンを通じた個人識別)の決済システムを利用するためだ。
このキャンプで暮らす4万人弱の難民の多くは、キャッシュレスでカードも必要ない同システムの利便性はよく分かっているが、好ましいと思う人は少ない。
2015年にアレッポから脱出してきたサボーさんも「本当にうんざりする。1回では認証されず、2回か3回はかかる。個人的には指紋認証の方がましだ」と話した。
国連世界食糧計画(WFP)は2017年、「ビルディング・ブロックス」と呼ぶブロックチェーン技術に基づいた支援プラットフォームを導入。現在ではヨルダンとバングラデシュで生活している100万人余りの難民向けに展開している。
WFPによるとこれを用いれば、現金や食糧、水、医薬品といったさまざまな種類の支援の追跡や調整、配達が可能となり、約250万ドル(約3億4000万円)の銀行手数料が節約できたという。
実験動物
しかしデジタル人権団体は、そうした新技術を難民など立場の弱いグループに使用することや、彼らが大事な身体に関するデータを食糧と引き換えに提供してしまうことに疑問を投げかけている。
ハーバード大学のバークマン・クライン・インターネット・社会センターのペトラ・モルナー研究員は「難民たちは実験動物になっている」と非難し、こうした実験が社会の片隅に追いやられている人々を対象に行われている事態に困惑を隠さない。
モルナー氏は「地元の食料店で突然、虹彩認証システムが既成事実化されたら、住民は武器を持って暴れ出すだろう。そんなことが難民キャンプではまかり通っている」とトムソン・ロイター財団に語った。
また支援が頼りの難民に、個人情報提供に同意するかどうか決める権利が果たしてあるのかと問う声も出ている。
チュニジアで人権問題を調査研究しているディマ・サマロ氏は「同意問題には疑問符がつく。難民が同意を与えるのは納得したからか、それとも強制されたからなのだろうか」と述べた。