最新記事

台湾半導体

半導体帝国・台湾が崩壊しかねない水不足とアメリカ台頭、隙を狙う中国

SILICON SHIELD GOING DOWN?

2022年12月14日(水)17時03分
フレデリック・ケルター(ジャーナリスト)


NW_HDH_02-20221214.jpg

中国は8月、ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台に反発して台湾沖で軍事演習を実施


対中封じ込めで高まる緊張

TSMCの存在は、中国が台湾に侵攻しようとした場合に、アメリカが介入する十分な理由になるとされてきた。

観測筋は台湾の半導体産業を「シリコンの盾」と呼び、多くの台湾人はとりわけTSMCを「聖なる山」と呼ぶ。台湾中部の山々が台風による最悪の被害から西部の低地の都市部を守るように、TSMCは国を守る山だというのだ。

しかし、アメリカは法整備を進めるなど、国内で先端半導体を生産できる体制をいずれ確立できるかもしれない。たとえ数十年先でも実現すれば、アメリカは半導体のサプライチェーンを確保して、中国の領土回復主義の犠牲になるかもしれない島国への依存を減らせるだろう。

そのときTSMCと台湾は、アメリカのサプライチェーンで担っている重要な役割を失う。シリコンの盾に亀裂が入るのだ。

台湾に侵攻してTSMCを接収するという中国の願望が取り沙汰され始めた頃、今年10月にアメリカと台湾の「計画」をめぐる噂が流れた。中国が台湾に侵攻した際はTSMCの技術者を避難させ、工場を爆破するというのだ。

もっとも、台湾の当局者は否定している。実際、台湾人が自国の最も貴重な資産の一部を自ら破壊するとは考えにくい。

それでも台北のシンクタンク中央研究院の政治学者、呉介民(ウー・チエミン)によると、中国の半導体産業に向けた一連の輸出規制は、TSMCが「聖なる山」の役割を果たさなくなることを意味している。

それどころか、アメリカの封じ込め政策に直面した中国は、半導体分野で自国の技術開発を確保することが絶望的になれば、台湾海峡の対岸にますます欲望を募らせるだろう。

「現在のシナリオでは、TSMCがあるために、中国はこれまで以上に台湾を切望するようになる」と、呉は言う。

半導体をめぐるここ数カ月の動きによって、台湾は東アジアの地政学的舞台の中心になりつつある。ただし、国内では何年も前から半導体の支配的地位を守るコストが積み重なっており、半導体産業が環境に及ぼす影響は戦略的な意味合いを持ちかねない。

「台湾では政府も一般市民も、TSMCと半導体産業を特別な存在と見なしている」と、台湾の環境NGO、地球公民基金会(CET)の呉介民(ウー・チエミン)顧問(半導体産業担当)は指摘する。「TSMCは、必要なものは何でも手にできる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独小売売上高指数、12月前月比-1.6% 予想外の

ワールド

トランプ氏の米国版「アイアンドーム」構想、ロシアが

ビジネス

ECB政策金利、春か夏にも中立金利に=フィンランド

ビジネス

ユーロ圏製造業、米関税より中国製品流入を警戒=EC
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中